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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第40章 落ち武者は薄の穂にも怖ず


それが他の生徒達への牽制になるはずだ。
それで十分だと、武田は考えた。

年がまだ高校生の彼らと近い分、合宿中夜の校内を歩き回りたい気持ちが武田にも分かった。
自分が高校生くらいの時、同じような事をして回った経験もある。

だから余計に、武田は彼らの行動にことさら目くじらを立てる気は無かった。
けれど一応教師という立場上、彼らに指導をしなければならない。

「…僕は、君達の顧問です。近くで君達を見てきました。だから、君達2人の言葉を信じます」

その言葉に、東峰も黒崎もホッと溜息をつく。

「しかし、君達の行為は誤解を招いてもおかしくないものです。
そしてその誤解がどういった事態を引き起こすのか、賢明な君達なら言わなくても分かりますよね」

眼鏡の奥の武田の目が光る。
生徒2人はその目を前にして頷くしか無かった。

「君達は、烏野を代表してこの合宿に参加しています。
通常の学校生活と異なるとはいえ、学校の看板を背負っていることに変わりはありません。
その事を再度、胸に刻んで下さい」

再び生徒2人は武田の言葉に深く頷いた。

怒鳴るでもなく、責め立てるわけでもない。
冷静かつ淡々と諭すことに、この武田一鉄という教師は長けていた。

大体において、説教される生徒は何が悪かったのか自覚している。
そこに怒号を飛ばせば、説教の内容よりも怒鳴られた方に意識がいく。
後に残るのは教師に対する不快感だけ。

それでは“説教”の意味がない。
“説教”とは文字通り、教えを説くことにある。

現に武田の考えるとおり、東峰と黒崎の2人の中にしっかりと武田の想いが染みいっていた。
武田を見つめる2人の目に一切の曇りも揺らぎも無い。

充分に自分の意図が伝わったことを確認して、武田は2人を部屋へ引き上げさせた。


******

「あれ、東峰くんは?」
「さっきまで後ろにいたはずですが……」

東峰と黒崎が武田に見つかる少し前。
木兎と赤葦は逃げ込んだ空き教室で、小さくなって外の様子をうかがっていた。

さっきまで一緒にいたはずの東峰の姿が無いことに気が付いた木兎の顔が青ざめていった。

「え…まさか、ユーレーに連れて行かれた?!」
「別の場所に隠れたんじゃないですか」

冷静に赤葦が返すと、木兎はつまらなさそうに口を尖らす。
冗談のつもりだったらしい。
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