第40章 落ち武者は薄の穂にも怖ず
懐中電灯が照らしたのは、黒崎を押し倒して固まった東峰の姿だった。
ライトはしばらく2人を照らした。
懐中電灯の持ち主も、東峰と黒崎の2人も、今起こっていることが理解できないでいた。
ようやくライトの明かりがわずかに動いたときには、懐中電灯の持ち主だけは平静さを取り戻していた。
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「東峰君、黒崎さん。まず、事情を聞かせて下さい」
眼鏡の縁を押し上げて、烏野の顧問ーー武田は2人の顔を眺める。
眉をつり上げているわけではないのに、武田の雰囲気にはいやに迫力があった。
その迫力に押されそうになりながらも、東峰と黒崎はああなったいきさつを語った。
「……そうですか。肝試しをしていて、ここまで来たと。…そして東峰君を偶然見かけた黒崎さんが、彼が見咎められると思って教室に引き込んだ。…2人とも、その説明に間違いはないですか」
武田の言葉に、2人同時に頷く。
瞳の中は不安そうに揺れていたが、2人とも武田の目をじっと見ている。
武田はその2人の目を見て確信した。
この2人は本当のことを言っている。
2人のプライベートな関係までは関与していないけれど、こういう時に嘘をつくような子達では無い。
発見したのが自分で良かった。
他の先生方だったら一体どうなっていたことかーー。
武田の脳裏に最悪の事態が浮かび、それが溜息となって外へ出て行った。
「1つ、確認します。東峰君、肝試しは君ひとりでしていたのですか?」
一瞬、東峰は迷った。
けれどここで木兎達の名を出してしまっては、彼らを売るような気がして東峰は口をつぐんだ。
代わりにゆっくり頷いた。
「そうですか。分かりました」
この質問に対しては、彼は嘘をついている。
武田はそう確信していた。
その証拠に、さっきは目を合わせてくれた東峰君が、一切僕の方を見ようとしない。
隠したいことがあるから、目が見れないのだ。
目は口ほどにものを言う。
全くもってその通りだと、武田は思った。
他にも数人、夜中に校内を徘徊していた生徒がいる。それは確かだ。
けれどその生徒の名を彼らの口から聞き出すことに躍起になる必要は無い。
この場から解放された後、この状況に陥ったことを肝試しを行った他の生徒に話すだろう。