第40章 落ち武者は薄の穂にも怖ず
「いるんすかね、ホントに」
田中が口を開くと、菅原の目がそちらに向く。
「どうだろうな? でも学校が建ってる場所って合戦場跡だったとか聞くよな」
「ええっ……そうなの……」
初耳だ、と言わんばかりの顔で東峰が菅原を見る。
そんな東峰を見ると、菅原の中のイタズラ心がむくむくと大きくなる。
「ココがそうなのかは知らないけどな。あ、あと学校って集まりやすいらしいぞ。昼間学生で賑やかにしてるだろ。そうすると陽気が溜まるんだって。夜はその陽気を求めて霊達がゾクゾクと集まってくるらしいぞ」
「ひぃぃ…!!」
箸を持ったまま固まる東峰に、月島が小さく息を吐いた。
冷静沈着な月島からすると、何をそんなに東峰が怖がっているのか理解できないようだった。
「普段夜の学校出入りしてるじゃないですか、東峰さん。今更怖がることないんじゃないですか」
「そっすよ! 旭さんビビりすぎっすよ!」
冷静な月島と明朗快活な西谷のおかげで、東峰は心持ち恐怖心を乗り越えたかに見えた。
「ちょうどいいじゃん、旭も木兎達と幽霊探ししたら?」
「はぁっ?!何でだよスガ」
持ち直したかに見えた東峰がまた狼狽する。
菅原の突飛な発言を受けたらそうなるのも仕方が無かった。
けれど菅原には菅原なりの理屈があったらしい。
「ガラスのハート鍛えるいい機会じゃん。鋼鉄の、とまではいかなくてもアルミ缶くらいにはさぁ」
「でもアルミ缶ってすぐヘコみますよ」
すかさず月島の鋭いツッコミが入った。
「あ、そか。まぁいきなりスチール缶は無理だろうから、アルミ缶でいいや」
「なにその投げやり感!」
ぞんざいな菅原の回答だったが、普段からそんなやり取りはしょっちゅうだったから、烏野部員は誰もフォローに回らなかった。
「要は肝試しって事っすよね。面白そうじゃないっすか」
「お、西谷乗り気だなぁ! 俺も夏らしい思い出作りたいと思っててさ。ずっと部活ばっかだし」
確かに夏休みだというのに、青春真っ只中の彼らの日常はバレー一色だ。
プールや花火大会、夏祭り……そんなものとは縁遠い。
朝から晩までボールを追いかけるのは、好きで選んだこと。
だから合宿がつまらないとかそんな事は全く思わない。
だけど、高校最後の夏。
何かこのメンバーで思い出に残るイベントをやってみたい。
菅原の頭にはそんな考えが浮かんでいた。