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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第39章 合宿3日目


画面のおばさんは、嬉しそうに私に手を振った。
興奮しているのか手を振るのと一緒に、画面も揺れている。
そのせいでおばさんの顔までも勢いよくブレて、画面は肌色の何かが映っているようにしか見えなくなってしまった。

「母さん、手振りすぎ。ブレブレで全然見えねぇから」

笑う衛輔くんの肩が触れる。
すぐに衛輔くんは私の顔色をうかがうようにして、悪い、と距離をあけた。

『ごめんね。嬉しくて興奮しちゃって。大きくなったねぇ美咲ちゃん』
「おばさんは、全然変わらないですね。あの時と同じ」
『もう、そんなお世辞はいいのよ! …そんなお世辞言えるほど、大きくなったんだねぇ』

しみじみとおばさんは言う。
お世辞でなく、本当におばさんは変わっていなかった。
髪型も、表情も、あの頃のままだ。

『そうそう、衛輔から聞いたけど。美咲ちゃん倒れたんだって? 体、大丈夫なの?』
「はい。今のところ後遺症も出てないですし。今日から練習参加してて。…倒れた時、衛輔くんがすぐ手当てしてくれたおかげです。お医者さんも褒めてました」
『そうらしいわね。ほら衛輔、よくあなたの看病してたじゃない? その時に“家庭の医学”やらなにやら読み漁ってたから。それが役に立ったみたいで、良かったわ。今は元気にしてるのなら、ひとまず安心ね。でも無理しちゃ駄目よ。倒れるってよっぽどなんだから。若いから多少無茶出来るかもしれないけど、そういう無茶は後々年取ってから顔を出すんだから』

実感のこもった話に、頷かざるを得なかった。
説教くさくなってごめんね、とおばさんが謝る。

『お父さんもね、美咲ちゃんの顔が見たいって言ってたのよ。今日はあいにく仕事でいないんだけど。…ねぇ、美咲ちゃん。やっぱり合宿終わったらウチに来ない? もっとゆっくり色んな話をしたいのよ、直接会って』

ーちょうど合宿最終日は金曜だから、土日ウチに泊まっていくのも都合がいいんじゃない? とおばさんが続ける。

金曜に宮城に帰って、その翌日土曜日は疲れを取るため、部活は休みだ。
日曜から部活は再開される予定だけれど、午前中だけのはず。

なるだけ部活を休みたくはない。
だけど、おばさんの切実な想いをはらんだ声を聞いて、衛輔くんのお家にお邪魔しなきゃいけない気がしてくる。
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