第39章 合宿3日目
私は、衛輔くんのことは、昔と変わらず『やくのおにいちゃん』だと思って接してきた。
だから、子供の頃と同じ近い距離でも違和感が無かった。
だけど、今は。
私と衛輔くんが、周囲の人の目にどう映っているのか知った。
そして衛輔くんの気持ちが、私と違って、幼い頃のものと変化しているのだとすれば。
私は衛輔くんとの距離の取り方を考えなければいけない。
「…少し、恥ずかしいかな」
きっぱりと「嫌だ」とは言えなかった。
子供の頃の記憶があるし、何より捨てられた子犬みたいにしょんぼりしている衛輔くんをこれ以上傷つけたくなかった。
そのどっちつかずの態度が余計に人を苦しめるということを、身を持って知っているくせに、はっきりと拒否できない。
旭先輩が、誰に対しても優しい姿を見て、嫌だなぁって思ったのに。
私も衛輔くんに強く言えない。
人の気持ちって、そう簡単に割り切れるものじゃ、ない。
「そっか……。ごめんな、俺美咲ちゃんとは距離近くても問題ねぇって思ってたから。そうだよな、俺達もう子供じゃねぇもんな。これから気を付けるわ」
衛輔くんが私から少し離れて、2人の間に空間が出来た。
見えない壁がそこに立ち現れたような気がした。
自分から距離を置きたいと思ったのに、いざそうなると寂しいと思う私はなんて自分勝手なんだろうか。
少し寂しそうな目をした衛輔くんに思わず謝りそうになる。
「…話変わるけどさ!」
寂しさを振り払うように、衛輔くんの声のボリュームが上がった。
「今日の夜、うちの親と電話してくれない? どうしても話がしたいって母さんがさ。おととい倒れた話したから、すごい心配してるみたいで。ほら、合宿終わったらウチに泊まれば? って話したことあったろ。でも美咲ちゃん来ねぇって言うから、母さんガッカリしちゃってさ。そういうのもあって、話、したいんだって」
ちょっとずるいな、と思った。
泊まりの話を断ったの、罪悪感あったから。
そこを突いてこられた気がした。
衛輔くんはあくまで『母さんが』と口にしていたけれど。
それは口実なんじゃないかって、うっすら脳裏をよぎった。
そんな風に考えてしまって、自分の薄情さに嫌気がさす。