第39章 合宿3日目
「美咲ちゃん?」
再度衛輔くんに名前を呼ばれて、慌てて大丈夫だよと答えた。
本当に? と疑うような眼差しとともに、衛輔くんの手のひらが私の額に触れる。
「ん、熱はないな」
そう言ったのに、衛輔くんの手はなかなか額から離れていかなかった。
それをじっと旭先輩に見られているのが気恥ずかしくて、軽く払いのけるように衛輔くんの手を額から外す。
「…夜久、気をつけないとセクハラになるよ。そういうの」
旭先輩は真顔だった。声音にも冗談のかけらは混じっていなかった。
「は? セクハラじゃねぇし。ただ俺は美咲ちゃんの体調が心配で」
「夜久と黒崎の関係は分かってるけど。もう2人とも子供じゃないんだし。あんまり距離近すぎるのもどうかと思う。他の人達の目もあることだし」
ふと、周囲に目を向けると。確かに旭先輩の言うように、私達をちらちらと遠くからうかがっているいくつかの目がある。
私と目が合うと皆不自然に目を泳がせた。
まるで盗み見していたのがバレて気まずい、とでも言うように。
「黒崎は優しいから言わないけど。年頃の女の子に、気安く触れるもんじゃないだろ」
「なんだよ。まるで美咲ちゃんの気持ち分かってるみたいな言い方だな、東峰」
「分かるよ」
キッパリと言い切った旭先輩に、衛輔くんも、そして私も驚いてしまった。
「あ、いやそりゃあ全部が全部とは言わないけど。…でも、大体分かる。今まで、近くで見てきたから」
「…最近再会した俺には分からねぇって言いたいのか?」
「そういう部分もあると思う。黒崎はいつまでも子供のままの黒崎じゃないんだから」
どうしてか、今日の旭先輩は衛輔くんに対していやに好戦的な態度だった。
今までも決して仲良しこよしの雰囲気では無かったけれど、今日は特にそう感じる物言いをする。
「……美咲ちゃんは嫌だったか? 俺が気軽に触ったりするの」
旭先輩の言葉に押されたのか、いつになく衛輔くんが気弱な声を出す。
そんなこと無いよ、と口から出そうになった。
けれど、雀田さん達が誤解していたように、ただの“幼馴染み”としては私達の距離は近すぎる気がする。
私達は、もう幼い子供ではない。
お互い分別のつく年頃なのだ。