第39章 合宿3日目
「私、マネージャーです。皆を支える側です」
だから、頼ったりなんて出来ません。
そう言おうとした。だけど、旭先輩は首を振った。
「マネージャーである前に、1人の人間だろ。…それに、俺は黒崎に頼られた方が嬉しいんだけどな。一応、これでも先輩だし。頼ってよ、俺のこと」
さざ波が立つように、胸の中がざわざわとしてくる。
優しくされると寄りかかりたくなってしまう。
だけど、私がここにいてもいいのか、なんて旭先輩に尋ねたら、先輩はきっとこう言うだろう。
『いいに決まってるだろ』って。
それが本心であれ、気を遣っての言葉であれ、私がそんなことを聞いたら先輩は肯定するしかないだろう。
そしてそれを聞いた私は、旭先輩に気を遣わせてしまった、申し訳ないと何度も思うに違いない。
だから正直に胸の内を話すことはしたくない。
かといって先輩の厚意を無下にもしたくない。
悩んだ末、私は旭先輩にお願いをすることにした。
「…じゃあ、旭先輩。何も聞かずに、“大丈夫”って言ってくれませんか?」
先輩は私の申し出に一度瞬きをしてから、分かった、と答えた。
「黒崎、大丈夫だよ」
何に対して肯定して欲しかったのか、旭先輩には分からなかったかもしれない。
それでも先輩は優しく“大丈夫”だと声をかけてくれた。
耳から全身に染み込んでいくように、旭先輩の“大丈夫”が何度も頭の中で繰り返し流れた。
その余韻に浸っていると、横から誰かが手を伸ばしてきて、私の肩を抱いた。
ぐっと引き寄せられて顔をそちらに向けると、衛輔くんの笑顔があった。
「美咲ちゃん、体調は大丈夫か?」
いつになく近い距離にどぎまぎしてしまう。
雀田さん達が『夜久君、絶対美咲さんのこと意識してると思うけどなぁ』と言ってたことを思い出す。
目の前の衛輔くんはニッと笑っている。
でもよく見ると、目の奥は心から笑っていないように見えた。
私をじっと観察するような目。
こんな目をした衛輔くんを見るのは初めてじゃ無い。
保健室で、私が“おにいちゃん”と呼んでしまった時、同じ目をしていた。
私の心の奥を見透かそうとしている。
雀田さん達の言葉と衛輔くんの目がイコールで結ばれるような気がして、でもまさか、と心の中で首を振る。