第39章 合宿3日目
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「森然高校の父兄の方から、スイカの差し入れでーす!」
体育館に入るなり、宮ノ下さんが声を張り上げた。
『差し入れ』の言葉に、館内が歓声に沸く。
烏野はちょうどペナルティの裏山の坂道ダッシュを終えたところだったようで、追加のドリンクとスイカを持って、潔子先輩と仁花ちゃんと皆の元へ向かった。
「お疲れ様」
「お疲れ様です!」
全力ダッシュの後で、汗だくな上に息をきらしながも、部員はニッと笑顔を見せてくれた。
田中先輩や西谷先輩なんかは、潔子先輩を見ただけで元気百倍になっていた。
「黒崎、体調はどう? しんどくない?」
「はい、大丈夫です」
顔を見るなり心配そうに声をかけてくれた旭先輩に、笑みを向ける。
必要以上に顔がにやつかないように、気をつけながら。
「さっきの試合はどうでした?」
「10点差で負け。今日もペナルティフルコースかなぁ」
「仕方ない。今はまだ色々合わせてる段階だからな」
自虐的に笑う旭先輩に、澤村先輩が肩を叩く。
昨日も、一昨日も。烏野がぶっちぎりでペナルティを受けている。
ひたすら試合をこなすのだってキツいのに、その上他校の倍以上ペナルティをこなすなんて。
疲労はたまる一方で、その体でまた試合をやって、勝てる望みは更に遠くなってしまうんじゃないかって思う。
「でもその分、他のヤツらより鍛えられますよね!」
「ポジティブだなぁ田中は」
「旭も見習えよ田中のポジティブさ」
しんどいはずなのに、そんな話をして笑い合っている先輩達。
どこからそのガッツはくるんだろうか。
『春高』っていう目指すものがあるから、そこまで頑張れるんだろうか。
自分が同じ立場だったら、この人達みたいに頑張れるだろうか。
そう考えると、目の前の先輩達の姿がまぶしくて仕方なかった。
私、役に立ててるんだろうか。
ふとそんな不安が脳裏に去来する。
何度振り切ろうとしても、この不安は拭えない。
ふとした時に現れて、不安を煽って心をかき乱そうとする。
多分、祖母に言われたあの一言が、小骨が刺さったみたいにずっと抜けないで残っているのだと思う。
ー貴方はただのマネージャーでしょう?ー
選手では無い。代わりのきく存在。
私である必要は無い。
潔子先輩も、仁花ちゃんもいる。