第5章 買い出しに行こう
旭先輩は優しいのに、子供にはその優しさは残念ながら伝わらないようだ。
どうしても旭先輩の風貌が、優しさよりも先に恐怖を与えてしまうようだ。
ひっくひっくと泣き続ける女の子の頭を優しく撫でて、背中をぽんぽんと優しく叩く。
心細さと、驚きと、ないまぜになって涙の止まらない状況では、あれこれと声をかけても無駄なような気がして、女の子が落ち着くまで待つことにした。
少しずつ落ち着いてきたのか、涙の量が減ってきた。
「大丈夫だよ。ちょっとビックリしちゃったんだよね。このお兄ちゃん、怖い人じゃないからね。」
私の声かけに、女の子はゆっくり頷く。
まだ旭先輩を見る目は少し怯えていたけれど、先ほどまでよりかは幾分か慣れたようだった。
旭先輩も眉尻を下げて精一杯の笑顔を向ける。
「お母さんとはぐれちゃったのかな?」
問いかけに、女の子は小さく頷く。
「そっか。じゃあ私達と探そっか?大丈夫、お母さんすぐ見つかるからね」
「…うん」
小さな声だったけれど、女の子ははっきりとそう言った。
にっこり笑顔をむけて、女の子の小さな手をにぎる。
女の子の名前を確認し、「お母さんいませんか」と声をかけながらスーパーを回った。
旭先輩は、私と女の子の後をおろおろしながらついてくる。
「あっ!おかあさん!!」
突然女の子は叫んで、パッと駆け出して行った。
飛びついた先の女性はびっくりした顔で、女の子を見て、涙目になっている女の子の様子から迷子になっていたことを察したようだった。
「もう、また一人でフラフラしてたの?!お母さんの傍から離れないでっていつも言ってるでしょ!」
「…ごめんなさい」
母親の剣幕に、口を挟む勇気もなく、旭先輩と2人顔を見合わせて、その場をそっと離れることにした。
ほんのちょっと振り返ると、女の子と目が合った。
女の子は小さく手を振って、彼女の口が「ありがとう」の形をかたどっていた。
にこっと笑って、私も小さく手を振る。
「あれ、二人とも何やってるの?」
こちらに向かってくる武田先生が、不思議そうな顔で私達を見ていた。
買い物をしているはずなのに、手ぶらで二人並んでいたら不思議に思うのも無理はない。
「迷子の子がいて、親御さん探してました。」
「そうですか。君たちは優しいね。感心感心。」
「あっ、カート置きっぱだ!」