第5章 買い出しに行こう
私の勢いに押されながらも、旭先輩がゆっくり歩み始める。
旭先輩の背にかけていた手の圧がふっと軽くなった。
バランスを崩しかけて、足がとととっと空振ったように地面を蹴った。
「っ、悪い」
こけかけた私を旭先輩がそっと支えてくれた。
触れられたところが熱くなった気がした。
この熱を気取られない様に、なんでもない風を装ってお礼を言う。
ふにゃりと旭先輩が笑って、行こうか、と声をかけた。
自動ドアが開くと同時に、『いらっしゃいませ』と機械的な音声が響いた。
夕飯前なのもあってか、スーパーは買い物客でにぎわっている。
「お、来たな!烏野バレー部!」
豚が笑顔で皿の上で輪切りになっている、なんともシュールなイラストの入ったエプロン姿で、烏野バレー部OBの嶋田さんが手を挙げてこちらに近づいてくる。
私達はぺこりとお辞儀をして、会話を始めた嶋田さんと武田先生をその場に残して買い物を始めることにした。
「今日は何を買うの?」
旭先輩が潔子先輩の手に握られた買い物メモを覗き込む。
びっしりと書き込まれたメモの字に「おー…」と旭先輩が軽く絶句している。
潔子先輩の指示の元、3人それぞれ買い物を分担することにした。
重いものはほとんど旭先輩の担当だ。
みなカートを押してはいるものの、力仕事は旭先輩に任せることにしたらしい。
自分に割り当てられた品物をカートに詰め込み終わった頃、どこからか子供の泣き声が聞こえてきた。
それと共に、困ったような旭先輩の声も。
「な、泣かないで!こわくない、怖くないから、ね?」
声の主の姿を探すと、隣の陳列棚にその姿はあった。
大きな体を小さく小さく屈めて、相対する子供に目線を合わせているようだった。
丸くなった旭先輩の背中にどことなく哀愁を感じた。
先輩は必死に泣き止まそうとしているようだったが、旭先輩が必死になればなるほど子供にとっては逆効果なようで、泣き声は大きくなるばかりだ。
「どうしたの?迷子?」
旭先輩の隣に屈んで、泣いている子供に問いかける。
小さな女の子が顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
おろおろしていた旭先輩は私を見るなり安堵の表情になる。
「黒崎~、助けて…どうしても泣き止んでくれなくて。迷子っぽいから声かけたんだけどさ…」
「任せてください!」