第39章 合宿3日目
「さー、気合い入れて頑張るよ」
雀田さんの言葉にみんなで「オー!」と声をあげて、大きなスイカとの格闘が始まった。
ひとつひとつ、丸々と大きなスイカは、包丁を入れるのも一苦労だった。
「そういえばさ、聞いた?」
雀田さんがスイカを半分に切り終えたところで、一度手を止めた。
顔を上げて雀田さんを見ている人もいれば、耳だけ傾けてスイカと格闘している人もいる。
「幽霊が出たって話」
なんとも夏らしい話題だと思った。
加えて学校という空間は、よくある“怪談”にうってつけの場所だ。
普段寝泊まりなんてしないから余計に、合宿中の今はそういった怪談話が出てきても、さして不思議なことではない。
「木兎が言ってたやつ~?」
「そうそう」
白福さんの問いかけに、雀田さんが大きく頷く。
「落ち武者と子供の幽霊見たらしいんだ、ウチの木兎が」
雀田さんの目がぐるりと他校のマネージャーを見回した。
具体的な幽霊の目撃談になったところで、皆顔を上げていた。
落ち武者と子供。
『落ち武者』というのはその言葉から具体的に想像がつくものの、それに比べると『子供』というのはなんとも曖昧なものに思えた。
戦から逃れようとした親子の霊なのだろうか。実際に霊がいれば、の話だけれど。
「ああ、今朝騒いでたのそれだったんだ」
潔子先輩が腑に落ちたように幾度か頷いていた。
私が武田先生に復帰の許可をもらいに行っていた間に、木兎さんが一騒ぎしていたらしい。
最も木兎さんはいつだって賑やかな人だから、潔子先輩はあまり気に留めていなかったようだ。
「こ、怖いですね…! 一体どのあたりで目撃されたんでしょう…」
「色んなとこらしいよ。トイレとか廊下とか」
怯えて尋ねた仁花ちゃんをさらに怯えさせようとしてか、雀田さんが不気味な笑みを浮かべて答えた。
ひぃぃっ、と悲鳴をあげた仁花ちゃんに「でも大丈夫」と雀田さんは付け加える。
「今までここで何回か合宿してるけど、幽霊なんか見たことないし。きっと木兎の見間違いかなんかだって」
ケラケラと笑う雀田さんにつられて、仁花ちゃんも他のマネージャーもどこかホッとした顔になる。
ただ1人、森然高校のマネージャー、大滝さんを除いては。
1人だけ硬い表情の大滝さんが、ゆっくりと口を開いた。
「……私も、見たよ。落ち武者の幽霊」