第39章 合宿3日目
心の中で、必死に旭先輩に声援を送る。
サーブだけじゃなく、試合中のどんな動きにも、旭先輩の気迫がこもっていた。
真剣な横顔に見惚れそうになるのを、唇を噛んでこらえる。
旭先輩のように、私も集中しないと。
そう思ったときだった。
「あぶねぇ!」
危険を知らせる声にハッとすると、逸れたボールがこちらに目がけて飛んできていた。
頭では避けようと思うのに体は動かない。
ただギュッと目を瞑って、顔をかばうように身を縮こまらせるしか出来なかった。
暗闇の中、バシッと大きな音が聞こえる。
不思議と痛みは感じなくて、おそるおそる目を開けた。
「黒崎、大丈夫か」
目の前に、旭先輩の顔があった。
したたる汗も、吐く吐息も間近にある。
試合中の真剣な瞳のままじっと見つめられ、心臓が跳ねてどこかにいきそうだった。
得点板に手をつき、私の肩に手を置く形で旭先輩は体制を保っている。
少しでも動けばバランスを崩しそうで、私はゆっくり静かに頷いた。
「旭先輩は、大丈夫ですか」
ボールから私をかばってくれた時、怪我しなかっただろうか。
心配で旭先輩に尋ねると、先輩の顔がふっと柔らかくなった。
「俺は大丈夫だよ。ありがとう」
言って、旭先輩はコートへ戻っていった。
時間にしたらものの数秒の出来事だったと思う。
だけど、体感的にはものすごく長い時間に感じた。
春高まで、想いは口にしない。振り回されない。
そう何度も心の中で呟くのに、目はすぐに先輩の姿を追ってしまう。
「黒崎、得点」
「あっ、はい!」
コーチに指摘され得点をめくる。
駄目だ、試合に集中しなくてはと思えば思うほど、先ほどの、熱を感じそうなほど近い距離で見つめる旭先輩の真剣な瞳が浮かび上がってきてしまう。
「大丈夫ですか、黒崎さん。もし体調が優れないようだったら…」
「大丈夫です!」
心配そうな顔の武田先生に笑顔を向ける。
折角先生の許可が下りたというのに、こんなことでベッドに逆戻りなんて嫌だ。
顔の火照りを鎮めるように、とにかくコートの動きに集中することにした。
******
午後からの練習が始まって少ししてから、梟谷の白福さんに呼ばれて、マネージャーは調理室へと集合した。
森然の父兄からスイカの差し入れがあったそうで、マネージャー総出で切り分けることになった。