第38章 合宿1日目夜~2日目
「意外と、エースの人だったり~?」
白福さんが何気なくそう言うと、美咲ちゃんの首の振りが若干大きくなった。
頬の赤みが耳まで到達していて、それに気が付いた雀田さん達の目は輝いていった。
これは。
これは大事件ですよお母さん。
美咲ちゃんの好きな人って……
「…東峰さん?!」
思わず口にしてしまった。
急に声を上げたから、ビックリした顔で皆がこちらを見ている。
慌てて口を塞いでも、もう遅かった。
「あれ? もしかして、仁花ちゃんも……?」
雀田さんの言葉に大きく首を振った。
違う。それは本当に、違う。
ただ私は東峰さんの片想いが通じてたのが嬉しかっただけで、私がどうこうなんて想いはこれっぽっちも無い。
「違います! ……えと、ただ、その…」
ああ、どうしよう。
言葉を濁せば濁すほど、私も東峰さんのことを好きみたいな空気になっていく……!!
完全にパニックになっていたけれど、誤解されるのは好ましくなかったから、何とか誤魔化そうと必死で言葉を探した。
「ぜ、全然、知らなかったから、ビックリして」
東峰さんの気持ちは知ってたけど。
美咲ちゃんの気持ちは、今まで全然聞いたことなかった。
だから、嘘はついていない。はず。
「仁花ちゃんも知らなかったんだ」
「は、はい」
こくこくと頷くと、そこで私に対する追及の手は止まった。
危なかった。
折角両思いの2人の間に、変な水を差すところだった。
「でもちょっと意外だな。あのエースの人、怖そうじゃない? 実は優しいとか?」
「え~結構優しいよ~? 昨日、荷物で手がふさがってた時、ドア開けておいてくれたし、その後も手伝おうかって声かけてくれたよ~?」
「そうなの? 顔に似合わずいい人じゃん」
雀田さんの言葉に、心の中で大きく頷く。
そう、そうなんです。
東峰さん、顔は怖いけど根は優しい先輩なんです。
真っ赤な顔で俯く美咲ちゃんだったけれど、先輩達の追撃はやみそうに無かった。
こうなったらとことん喋るまで先輩達は解放してくれなさそうだ。
「え、じゃあいつか告白するの? この夏合宿中とかチャンスじゃない?」
「普段の部活より長い時間一緒にいるしね。言ってもほとんど練習だけど。でも3年は残り少ないからさ。部活だけじゃ無くて学生生活もあと半年ちょっとだし」