第38章 合宿1日目夜~2日目
夢の中で私の頭を優しく撫でていたのは、夢の中のクマではなく……
現実の旭先輩だったのかもしれない。
気にしない、バレーに集中するって決めたばかりなのに。
簡単に揺らいでしまう自分の心に、ひとり溜息をついた。
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*谷地仁花side*
「仁花ちゃん、そろそろ美咲ちゃん呼びに行こうか」
全体での練習が終わって、影山君にボール出しをしていた私を、清水先輩が呼びに来た。
「あ、はい! 影山君、ごめん。ちょっと抜けるね」
「分かった。谷地さん、ありがとう」
「ううん!」
軽く会釈する影山君に手を振って、清水先輩の後をついていく。
昨日練習中に倒れてしまった美咲ちゃんは今日も1日保健室で休んでいる。
お昼に会った時は、わりと元気そうだった。
本人もマネの仕事がしたいと言っていたけれど、昨日の今日だから、先生も先輩達も「今日はしっかり休むこと」と噛んで含めるように言い聞かせていた。
熱中症は後遺症が残ることもあるって言うし。
私も心配だ。
保健室で待っていた美咲ちゃんはお昼の時より元気そうで、夕食も残さず食べられていた。
3人で食事を済ませて、寝泊まりしている教室へと向かう。
「おつかれー」
教室の扉を開けると、先に部屋で布団を敷いていた他校のマネージャー達が笑顔で出迎えてくれた。
「黒崎さん、体調は大丈夫?」
「はい、大丈夫です。気にかけていただいて、ありがとうございます」
「ううん。昨日目の前で倒れたの見たからね。気になってさ」
「すみません、ご迷惑おかけして」
美咲ちゃん本人は倒れた時のことはぼんやりとしか覚えていないらしい。
実際目の前で倒れたところを見た私達からすると、すごく衝撃的な場面だったんだけど、本人はよく覚えていないから皆に心配されると恐縮しちゃう、って言ってた。
食堂でも、他校のバレー部員から体調を気遣われる言葉をかけてもらったりしたから、余計そう思っちゃうのかな。
「…あのさ、こんな時に聞くのもどうかなとも思うんだけどさ…」
梟谷の雀田さんが、言いにくそうに話を切り出した。
「音駒の夜久君って、黒崎さんの彼氏?」