第38章 合宿1日目夜~2日目
白い天井に、皆の姿がぼんやりと浮かぶ。
走り回る部員達に、汗を流しながら彼らをサポートするマネージャー達。
その輪の中に入れない自分がひどく無価値なものに思えてくる。
焦っても仕方ないのは分かっているのに。
早く体育館に戻りたいと強く願った。
気持ちは焦れど、ベッドの上では何も出来ず、ただぼうっと時間が過ぎるのを待った。
そのうちにいつの間にか、私は夢の中へと引きずりこまれていった。
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あたりを見回すと、周囲はふかふかした綿のようなもので溢れかえっていた。
そっと触れるとふわりと柔らかく、ほんのり暖かい。
そのうち調子にのって綿に飛びのってその上で飛び跳ねていると、遠くに大量のクマのぬいぐるみが集まっているのが見えた。
ずいぶんとメルヘンな夢を見るものだなぁ、と思いながらもそのぬいぐるみの方へ行ってみた。
色とりどりのぬいぐるみの中で一際目を引いたのが、1番大きなクマのぬいぐるみだった。
よく見ると昔大事にしていたぬいぐるみにそっくりだ。
体が弱ると心も弱るというから、こんな夢を見ているのかもしれない。
懐かしいぬいぐるみに近づくと、目が合ったそのぬいぐるみがゆっくりと動き出した。
ぬいぐるみの大きな右手が私の頭を優しく撫でる。
小さい頃、泣き虫だった私を泣き止ます時に、衛輔くんがぬいぐるみを操って、こんな風に頭を撫でてくれたっけ。
懐かしい思い出に、急にセンチメンタルな気分になる。
夢の中でさえもまだ甘えん坊な自分を知って、ちょっぴり恥ずかしく思った。
私はきっと、まだ年相応に成長し切れていないのだろう。
でも夢の中でくらい、何かに甘えてもいいかもしれない。
何度も頭を撫でてくれるクマのぬいぐるみに、思い切って抱きついてみる。
ふんわり甘い花の香りがして、もっとその匂いを嗅ぎたくなって、ぬいぐるみに顔をうずめる。
頬ずりすれば柔らかいぬいぐるみの感触が……するはずなのに、柔らかくない。
むしろ毛羽立っているのか何か埋まっているのかチクチクした感触がする。
抱きついたぬいぐるみも、私を抱きしめてくれているものの、回された柔らかなぬいぐるみの腕の感触が、次第にかたい感触へと変わっていく。
夢の中で、急な変化が起きるなんてよくあること。
だけど、背中に回された腕の感触だとか、頬にあたるちくちくとした感触だとか、あまりに鮮明すぎる。