第38章 合宿1日目夜~2日目
潔子先輩の言葉に静かに頷く。
気持ちを伝えなかった理由。伝えられなかった理由。
今目の前にある、バレーそのものが理由だ。
「…旭先輩言ってたんです。『今はバレーに集中したい』って。それが元カノさんの告白を断った理由らしくて。先輩達ずっと言ってましたよね、『春高に行く』って。だから私の気持ちなんか伝えたところで迷惑でしかないだろうなって思って」
「そっか…」
私の話を聞いた潔子先輩は黙り込んでしまった。
きっと潔子先輩から見ても、私の気持ちが旭先輩に届く可能性が望み薄に見えたんだと思う。
今までたくさん協力してもらったのに、なんだか申し訳ない。
「…じゃあ、春高終わった後だったら、どうかな」
「えっ」
「『今は』バレーに集中したいんでしょう。バレーが一段落ついたら、気持ち伝えてもいいんじゃない? 何も諦めたりしなくてもいいと私は思うけど」
「あ…」
確かに潔子先輩の言うとおりだ。
旭先輩のことを好きでいることは、別にとがめられる事じゃ無いんだ。
今はダメでも、春高が終われば……
……春高が終われば、私の烏野での生活もほぼ終わりだ。
祖母に許された期間は、旭先輩の卒業まで。
先輩が卒業したら、私はまた東京に戻らないといけない。
気持ちを伝えて、もしも願いが叶ったとしても。
すぐにそばにいられなくなる。
祖母の元にいて、旭先輩に会えるのだろうか。
祖母の家での一ヶ月間は、プライベートで外に出る機会はほとんど無かった。
家督だなんだと言うような祖母が、私の交友関係に口出ししないとも限らない。
「何か余計なこと考えてない?」
私の頭の中を見透かすように、潔子先輩が言う。
ドキッとして潔子先輩を見ると、耳に髪の毛をかけながら潔子先輩は言葉を続けた。
「大事なのは、美咲ちゃんの気持ちだよ」
私の、気持ち。
シンプルな潔子先輩の言葉は、さっきまであれこれ悩んでいた私の背中をぐっと押してくれた。
旭先輩の気持ちだとか、これからのことだとか、私はあれこれとらわれすぎていたのかもしれない。
ただ、旭先輩のことが好き。それでいいんだ。
想いが叶うとか叶わないとか、ひとまず置いておいて。
命をかけてまでここに戻ってきた意味を、私は改めて思い返す。
「…ありがとうございます、潔子先輩。私、吹っ切れた気がします」