第37章 交錯する心
自分勝手だと、分かっている。
一方的に避けておいて、その理由は聞かないでおいて欲しいなんて。
「…俺、黒崎に嫌われるのは、嫌なんだ」
そんな一言にも、意味を見いだそうとしてしまう自分が嫌になる。
旭先輩が私と同じ気持ちならいいのに、って何度思ったことだろう。
一人で思い悩んで一人で推測して。自分の都合の良いようにしか動かない頭に、踊らされてばかりだ。
…だったら。先輩自身に、確かめてみればいいんだ。
先輩がどう思っているのか。何を考えているのか。
「せ、んぱいは…どうしていつも私を構ってくれるんですか? 色々、面倒な後輩なのに」
家のことで、先輩には色々と迷惑をかけた。
いらない心配もさせてしまった。
普通なら関わり合いたくない背景を持つ私に、旭先輩は真っ直ぐに向き合ってくれた。
どうしてもそこに、何か特別な意味があるんじゃ無いかと思ってしまう。
「どうしてって……後輩と仲良くしたいって思うの、おかしいことかな。…俺は、黒崎のこと、大事な人だと思ってるよ。…烏野に欠かせない、大事なメンバーだって」
自分でとどめを刺した気がした。
旭先輩の中で、私は『後輩』で『マネージャー』という認識なのだと、再確認してしまった。
きっとそれ以上でも、以下でもない。
私と旭先輩の間には明確なラインが引かれているのだ。
やっぱり、想いは伝えられない。打ち明けてしまったら、この関係さえも壊れてしまいそうで、怖い。
「…俺の独りよがりだったかな。仲良くしたいって思ってたの。そういうの、ウザかったのかな」
「っ、違います! 私も、先輩と仲良くしたいです」
これは本心だ。
だけど、『じゃあ、何故避けていたの?』と問われておかしくない答えだ。
その問いには正直に答えられない。
私は、また旭先輩に嘘をつかねばならない。
「そっか…良かった、俺嫌われたと思ってたから」
「嫌いになんて、なるわけないです」
先輩のこと、大好きなんですから。
「旭先輩は…大事な、人ですから」
「えっ…?」
旭先輩は驚いた顔をしている。
その表情が意味するところは、なんて考えるのはもうよそう。
意味が分かったって、気持ちを伝えるわけにはいかないのだから。
「尊敬すべき先輩で、部のエースですから」