第37章 交錯する心
一度逃げ出しても、また壁に立ち向かう勇気。
壁を乗り越えていく強さ。
私に居場所を与えてくれた優しさ。
先輩の全てが、尊敬すべきところだと本気で思っている。
だから、今言った言葉は嘘じゃない。
先輩が、私のことを『後輩』だと思っているのなら。
私も同じように『先輩』だと思おう。
それ以上の感情を持ち込んだら、お互いややこしくなるだけな気がするから。
だけどそれは、同時に先輩後輩以上の関係を越えることは無い、と宣言したのと同じだった。
気持ちにふたをしたまま、私は旭先輩と向き合わなければならないのだ。
祖母と約束した一年間。
その間先輩のそばにいられるだけでも、充分幸せじゃないか。
そう思い込むのに必死だった。
思い込まなければ、心が張り裂けそうだったから。
「そ、うか…尊敬されるほど、偉い人間でも無いけど…」
「尊敬できるところ、たくさんありますよ? 今から挙げてみましょうか?」
わざと、おどけた調子で言ってみた。
そうすれば少しは、前みたいに旭先輩と話せそうだった。
「えぇ?! い、いや、いいよ。それは恥ずかしいから」
「えー、残念だなぁ」
その時から、旭先輩の前では仮面をかぶるようになった。
本心を悟られないように。
先輩のことが好きだと、気が付かれないように。