第37章 交錯する心
芝山くんと一緒にリエーフくんを捜しに行こうとした衛輔くんが、くるりと振り返り旭先輩に向かって人差し指を向けた。
まっすぐに伸びた人差し指は、伊達工の青根さんを彷彿とさせた。
衛輔くんの目に宿る気迫もなんだか青根さんのそれと似ている気がする。旭先輩は何を言われるのかと、身構えているようだった。
「おい、東峰。抜け駆けすんなよ、お前」
「う、うん」
「男の約束だからな!」
そう言い残して、衛輔くんはリエーフくんを捜しに行ってしまった。
抜け駆けってなんのことだろう。
衛輔くんの言葉が少し引っかかたけれど、それよりも私の頭は急に旭先輩と二人きりになってしまったことにパニックになっていた。
さっきまでは衛輔くんもいたから、あまり意識していなかったのに、旭先輩と二人きりになるとどんな顔をしていいのか、どんな態度を取ったらいいのか分からなくなってしまった。
このまま二人で食事をとるなんて、気まずすぎる。
「あ、旭先輩。やっぱり私、ちょっと気分が…」
言いかけたところで、盛大にお腹が鳴った。
あまりにも元気に鳴ったお腹と、衛輔くんがいなくなったタイミングでの発言に、誰が聞いても私の言葉は嘘だと分かっただろう。
あからさますぎる嘘に、さすがの旭先輩も顔を曇らせた。
「あのさ、黒崎。俺、何か黒崎に嫌われるようなことしたかな? …最近、俺のこと避けてる、よな?」
「えっ…」
言葉に詰まる。
避けていたのは事実。今だって二人きりは気まずいからって嘘までついたのに。
面と向かって言われると、何も答えられない。
ずるいよね、こんな態度とるなんて…。
「俺、色々考えたんだけど、心当たり無くて…気づかないうちに黒崎が嫌がるようなことしてたのかなって。嫌な思いさせてたなら謝りたいんだ」
違うんです、旭先輩。
先輩は何もしていないんです。
ただ私が、勝手にあれこれ悩んで嫉妬してるだけなんです。
だけど、それを正直に伝えることは出来ないんです。
だって、心の内を正直に話してしまえば、それは想いを伝えることになってしまうから。
この間旭先輩は言っていましたよね? 『今はバレーに集中したい』って。
そんな先輩に、貴方のことが好きだと、想いを伝えることは迷惑以外の何ものでもないでしょう?