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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第37章 交錯する心


「食堂今なら空いてそうだし、一緒に行くか」
「えっ、でも練習は?」
「俺も腹減ったもん。飯食ってから行くわ。東峰、お前は?」

衛輔くんの問いかけに、旭先輩は一瞬悩んだようだった。
食事をしたら、すぐに練習って訳にはいかないだろうし。
旭先輩、いっぱい練習したいはずだもの。春高目指して、毎日努力しているんだから。

そう思うと、今日は本当に迷惑をかけてしまったという思いが強くなってきた。
私が体調を崩していなければ、今だって二人は練習に打ち込んでいたはずだから。
気持ちが沈むと、顔も自然と沈んでいった。

「俺も一緒に行く」

どこか慌てたような声で旭先輩がそう言うと、衛輔くんが「じゃあ行こうぜ」と声をかけた。
三人で連れ立って食堂へと向かう。
衛輔くんを先頭に、私と旭先輩がついて行く形だった。

食堂に向かう途中で、体育館が視界に入った。
どこもまだ煌々とした明かりがついている。耳には、シューズの擦れる音とボールの乾いた打撃音が響いてくる。
二人の視線はしっかりと前を向いていて、そんな音なんて気に留めていないようだった。

迷惑なんて思ってないよって、二人とも言ってくれたけど。
やっぱり私のせいで練習時間を削ってしまっている気がして、仕方ない。

明日からは今日みたいなことが無いように、しっかりしなくちゃ。

「っ、夜久さん!」
「どした、芝山」

大きな声とともに体育館から飛び出してきた人影は、音駒の一年生の芝山くんだった。
額に浮かんだ汗が一つまた一つと流れ落ちていく。
何かとんでもないことをしてしまったような顔をしている芝山くんは、衛輔くんに声をかけたものの、やたらと周囲を落ち着き無く見回していた。

「夜久さん、リエーフくん見てませんか?」
「リエーフ? いや見てねぇけど…あいつがどうかした?」
「さっきまで夜久さんに言われたとおりレシーブ練してたんですけど…僕がトイレ行ってる間にどこかに行っちゃったみたいで…」

リエーフくんは長身で銀髪の一年生。
彼ならどこにいても目立ちそうなものなのに、芝山くん曰く、探し回っても見つからないらしい。
泣きそうな顔の芝山くんを、面倒見の良い衛輔くんが放っておけるはずもなく……。
私達と芝山くんの顔を何度か交互に見た後、衛輔くんは溜息を一つついた。

「分かった。俺も捜す。リエーフのやつ、見つけたらただじゃおかねぇ」
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