第37章 交錯する心
「四時間半くらいかなぁ」
私がそう答えると、衛輔くんの顔がますます険しくなってしまった。
「美咲ちゃん四時間半もこいつの横に押し込められてたのか。ただでさえ図体デカイのにそのうえ寄りかかって寝るとか…!」
「本当、ごめん。今日倒れたのも、俺のせいだよな…」
旭先輩が申し訳なさそうに言うと、衛輔くんが飛びかからんばかりの勢いで詰め寄る。
「ホントだよ! つかなんだって東峰が隣だったワケ? 部員数少ないんだし、空席ぐらいあったろ?」
「荷物乗せたら座席人数分しかなくって。補助席とかも無かったし。あ、でも座席はくじ引きで決めたんだよ? ですよね、旭先輩」
「そ、そう! くじ引きで公正に決めたよ」
「くじ引きねぇ……」
衛輔くんはまだどこか納得して無さそうな顔をしていた。
「…まぁ済んだことをとやかく言ってもしょうがない。帰りはぜぇったい、東峰の隣には座るなよ。つうかさ、男の隣に荷物積めば済む話じゃん! 帰りはそうしろな、美咲ちゃん」
あまりにも力強く衛輔くんにそう言われたものだから、頷くより他なかった。
行きと同じように旭先輩の隣に座るなんて、心臓が持ちそうに無いから頼まれても出来なかっただろうけど。
衛輔くんもいたからか旭先輩ともスムーズに会話が出来て、すっかり話し込んでしまった。
ふと目にした時計の針を見て、はっと我に返った。
いつまでも二人をここに引き留めておくわけにはいかない。
折角の合宿、練習の時間をこれ以上削らせてしまったら、申し訳なさすぎる。
「衛輔くんも、旭先輩も、練習するんでしょう? 私もそろそろ部屋に…」
言いかけたところで、ぐぅとおなかが鳴った。
こんな時でもおなかが空くなんて。何も二人がいるときにならなくてもいいのに。
「そっか、美咲ちゃん今日ほぼ何も食べてないもんな。お腹もすくよな」
「……何もしてないのにお腹すくなんて…」
「食欲あるのっていいことだよ。元気になってる証拠だし」
「そうそう。なんだよ東峰もいいこと言うじゃん」
二人とも笑ってそう言ってくれた。
今日は一日皆に心配をかけ通しで、ずっと寝ていただけで何も手伝えていないから、そんな状況でお腹が空いた、なんて厚かましいな、なんて思ったのだけれど。