第37章 交錯する心
以前からこの二人の間にいると、微妙な空気感に包まれることが多々あった。
それでも明確に敵対をしているわけでも無さそうで、私には分からない選手同士の、あるいは男同士の何かがあるのだろう、と思うことにしていた。
「…そう、やっぱりいてくれると何かと心強いしな」
やや間があって、旭先輩が衛輔くんにそう返した。
たとえ社交辞令だったとしても、旭先輩に『いてくれると心強い』なんて言ってもらえると嬉しい。
今日は何の役にも立っていないけれど……。
「もう一人の一年生のマネの子入ったばっかなんだっけ。美咲ちゃんの方がちょっぴし先輩なんだもんな」
「先輩なんてほどじゃないよ。私だって4月からだよ。遠征合宿だって今回が初めてだし」
「あー、だからか」
衛輔くんが何か納得したように頷く。
何のことかと目で問うと、衛輔くんはニヤッと笑って言った。
「いやさ、美咲ちゃんってさ、遠足の前日とか興奮して眠れないタイプだったじゃん。合宿前にして色々考えて眠れなかったんだろうなぁって」
「やだ衛輔くん! それ小学生の時の話でしょう。今はそんなこと……」
バスの中で眠れなかったのは、隣に旭先輩がいたからだし。
嘘は言っていないはず。
だけど睡眠不足の原因が旭先輩にあるだなんて恥ずかしくて悟られたくなかった。
正確には、旭先輩を好きな私の心が原因なんだけれど。
「……やっぱり、俺のせいだよな。黒崎が眠れなかったのって」
「は? 何それ、どういう事?」
旭先輩の言葉に、衛輔くんは私と旭先輩の顔を交互に見て、理由を聞きたそうにしている。
衛輔くんの勢いに少したじろぎながら、旭先輩が疑問に答えた。
「バスの中で、俺が黒崎にもたれて寝ちゃったから…だから黒崎はちゃんと睡眠とれなかったんだと…」
「は? はぁ?? ちょっと待て、もたれて寝たってお前、それって隣に座ってたってことか?」
「う、うん」
衛輔くんは旭先輩を問い詰めるように身を乗り出した。
詰め寄る衛輔くんの表情に目を泳がせながらも、旭先輩はこくこくと頷いている。
「いやそれおかしいだろ! なんで女の子の隣に野郎が座るんだよ。フツー女の子同士で座るだろ」
「うちマネージャー三人だし……」
「それは知ってるけど何も男の横に座らせなくてもいいだろ。宮城からここまで何時間かかんだよ。」