第37章 交錯する心
顔を合わせて、またそむけられたらと思うと、すごく怖い。
言葉は無くとも、ハッキリと感じた黒崎の『拒絶』の意思。
何で避けられているのか理由も定かじゃ無いから、余計に怖い。
その上で、夜久と黒崎の仲睦まじい様子を目の当たりにするなんて、今の俺には耐えられそうに無い。
何も言わないスガが怖くて、サーブ練に戻ろうとボールに視線を落とす。
「そっか。じゃあ、練習するべ」
「・・・えっ?」
スガの言葉に、思わず聞き返してしまった。
目を丸くしている俺に、スガは不思議そうな顔をしていた。
「なんだよ? 美咲ちゃんのとこ行かねぇんなら練習しかないだろ、やる事」
「あ、いや・・・それはそうだけど・・・」
いつものスガだったら、うじうじ言い訳を並べて行動しない俺に喝を入れるところなのに、今日のスガは何も言わなかった。
それが妙に落ち着かなくて、変な気分だ。
「何? 変な顔して」
「いやだって、スガなら『言い訳ばっかりしてないでさっさと会いに行け!』って言うかと思ってたから・・・」
「・・・それってさ、旭が俺にそう言って欲しいって思ってるってことだべ?」
「えっ」
そうかもしれない。
言い訳を並べて傷つかないように自分を守ることばかりな俺の背中を、誰かに押して欲しいのかもしれない。
だからスガがいつもの調子で『会いに行けよ!』って言うと思ったのかもしれない。
「やらない理由なんてさ、いくらでも思いつくよ。だけど今旭がやるべきなのは、ただシンプルに美咲ちゃんに会いに行くことだろ。傷つくことばかり恐れてたら、前進出来ないべ。・・・本当は、旭も分かってんだろ。あと一歩、踏み出す勇気が無いだけでさ」
いつものスガなら、回し蹴りの一つかグーパンチの一つでも飛ばして、俺の背中を押しそうなのに。
今日のスガは、どことなく優しい気がした。本人に言ったら『俺はいつも優しいだろ』って怒りそうだから言わないでおくけど。
「・・・俺、怖いんだ。また黒崎に避けられちゃうんじゃないかって。・・・こないだから若干ギクシャクしてたんだけど、昼間あいつが倒れた時、思いっきり顔そむけられたし」
優しいスガに俺の気は緩んだのか、本音が口から漏れ出てしまう。
言いながら自分の後ろ向きな考えに自分でちょっと呆れてしまった。