第37章 交錯する心
「旭は美咲ちゃんのとこ、行かねぇの?」
スガがわざわざそう声をかけてきたのは、保健室に向かう夜久の姿を見たからだろう。
全体での練習が終わり、自主練の時間になるやいなや、夜久はすぐに体育館を出て行った。
後を追わなくても、夜久が黒崎の元に向かったのだと容易に想像がつく。
病院から戻った黒崎が今日一日保健室で休むことになったと誰よりも先に話してくれた夜久の事だ。
目の前で倒れたこともあってか、心配でたまらないのだろう。
俺だって、心配してないわけじゃない。
休憩の合間に保健室に足を運んだりもした。
だけど、保健室の扉をノックすることすら出来なかった。ただ扉の前で黒崎の事を思うだけで精一杯だった。
黒崎の体調に気を遣ったのも、もちろんある。
だけどそれ以上に、自分が黒崎のそばにいる資格が無いような気がして、一歩が踏み出せなかった。
倒れた黒崎を手慣れた様子で介抱する夜久に対して、尊敬の前に嫉妬を抱いてしまった俺をよそに、夜久は何も気にしていないかのように俺に接してきた。
黒崎の容態や、倒れて迷惑をかけてしまったと落ち込んでいたこと等、夜久は黒崎とのやり取りを隠そうとせず逐一報告してくれた。
夜久の頭には今、黒崎の事しか無いんだ。
俺がライバルだとかそんなことどうでも良くて、ただ心から黒崎の事を心配している。
だからこそ同じように黒崎を心配している俺に対して包み隠さず現状を伝えてくれたのだと思う。
それがまた無性に腹立たしいことこの上ない。
ライバルとして同じ土俵に立っているつもりが、夜久の方が俺よりずっと上にいるような気がする。
実際、黒崎だって俺を避けて、夜久を頼りにしている風だったし。
こんなことをグルグルと考えていたから、いくらスガに怪訝な顔をされても、自信なさげに首を振るしか出来なかった。
「・・・俺が行っても何も出来ないし。それに夜久が行ったんなら、俺まで行くとかえって迷惑になるだろ。黒崎だってまだ本調子じゃないだろうし」
自分でも言い訳がましい言葉だと思う。
もっともらしい理由を並べたって、俺が尻込みしてる事実は変わりはしないのに。
だけど、怖いんだ。