第36章 夏合宿
黒崎のすぐ傍で、今にも泣きそうな顔をしている夜久の姿を見たら、素直に良かったと言えなかった。
黒崎が意識を取り戻したことより、そんな事を考えてしまう自分が嫌になる。
俺は彼女のヒーローになりたかったのだろうか。
目を覚まして彼女が一番に目にするものになりたかったのだろうか。
黒崎が倒れても、何も出来なかったくせに、望みだけはずいぶんと立派だった。
彼女の命を救った夜久の方が、俺よりも何倍も黒崎の隣にいるのに相応しい人物に思えてならない。
もしあの時。
黒崎が俺のすぐ傍で倒れたとしても。
俺は夜久と同じように対処出来ただろうか?
あんなに冷静に、介抱出来ただろうか?
目を覚ました黒崎が病院に連れて行かれる段階になって、ようやく俺は彼女の元へ近づいた。
担架に乗せられた黒崎と目が合う。
黒崎に何か声をかけようとしたけれど、俺が口を開く前にスッと目をそらされてしまった。
まだ気分が悪いからだろう、と自分に言い聞かせてみたものの、あからさまに避けられた事実は変わらなかった。
この間から、少しよそよそしい態度を取られているような気はしていたけれど。
今のこれは、明らかに『拒絶』の態度だ。
その代わりに、夜久の声掛けには静かに頷いている。
こんな状況だというのに、黒崎と夜久のやり取りを見て胸が痛んだ。
何も出来なかった、しなかったのは自分なのに。
夜久に成り代われたらどんなにいいかと思わずにはいられなかった。