第5章 買い出しに行こう
時間はいくら頼んだところで、待ってはくれない。
ならば少しでも、黒崎と東峰の接点を増やしてあげたい。
おくびにも出さずに、清水はそんなことを考えていた。
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「じゃあみんな車に乗ってー」
「よろしくお願いします、武田先生」
武田先生に促されて、潔子先輩と旭先輩と私は車に乗りこもうとした。
買い出しに行くとは聞いていたけれど、まさか旭先輩も一緒だとは思っていなかった。
びっくりした顔の私に、潔子先輩がちょっとだけ笑みを見せる。
先輩、もしかして気を回してくれた?
「あ、私酔いそうだから助手席座るね」
潔子先輩はそう言うと、さっと助手席のドアを開けて車に乗り込んでしまった。
残された私と旭先輩は顔を見合わせ、お互いへらっと笑顔を見せた。
「俺が隣だと窮屈かも。ごめんね」
「いえっ、全然!お気になさらず!」
隣に旭先輩、という事実だけでもドキドキするのに、武田先生の車はよりにもよって軽自動車だった。
大柄な旭先輩が座っただけで、座席がパンパンになったような錯覚に陥る。
「ごめん、車が小さくて。トランクが大きい分、ちょっと座席が狭いんだよね」
バックミラー越しに、眉が八の字に下がった武田先生と目が合う。
私はぶんぶんと首を振った。
「大丈夫です!小ささには自信があるんで!」
私がそう言うと、隣から盛大に吹き出す声が聞こえた。
「ははっ、なんだよその自信。面白いなぁ、黒崎は」
言い終わっても旭先輩は小刻みに体をふるわせて笑っている。よほど先輩の笑いのツボに入ったらしい。
そんな些細なことにも嬉しさを感じてしまう。
思わず緩みそうになる頬をぎゅっとかみしめ、気持ちが外に漏れないようにこらえた。
「えーっと、買い物先は嶋田マートでいいんだよね?」
「はい」
「嶋田マートってめっちゃ安いですよね。こっち来て初めて行ったときビックリしました」
「確かにあのスーパー安いよなぁ。…ていうか、『こっち来て』って…?黒崎って引っ越してきたの?」
旭先輩の言葉に、そう言えば県外から引っ越してきたことはいまだ誰にも話していなかったことを思い出した。
「あ、はい。高校入学ちょっと前に引っ越してきたんです」
「そう言われれば、イントネーションとかちょっと違うな。前はどこに住んでたの?」