第5章 買い出しに行こう
「東峰」
「ん?清水、何?」
部活の休憩中、清水潔子は東峰に声をかけた。
「合宿の買い出しに行くんだけど、荷物持ちでついて来てくれない?」
「ああ、いいよ。俺だけで手、足りる?」
「うん。武田先生が車出してくれるから、車まで運んでくれたらいいし。」
「・・・そうか。分かった」
武ちゃんの車があるなら俺いなくてもいいような気もするけど、と口にしそうになったが飲み込んだ。
清水にお願い事をされて悪い気はしない。
別に清水のことが好きだとか特別な感情を抱いているわけではなかった。
けれど、このバレー部に限らず、他校の生徒からも人気のある清水に頼られるということは、どことなく男として誇らしさを感じるのであった。
東峰は、清水が自分を指名した理由はなんだろうか、と少しだけ疑問に思った。
バレー部の中ではパワーのある方だとは思うが、他のメンバーだって育ち盛りの男だ。
買い出しの荷物持ちくらいなら誰でも出来るだろう。
「なんで俺だけご指名なの?」
東峰は純粋な疑問を清水にぶつけた。
清水は東峰のその質問に不思議そうな顔をしながらも、さらりと答えた。
「頼みやすいから」
至極明瞭なその答えに、東峰は、「そうかぁ」としか口にできなかった。
清水の口調から察するに、東峰を指名したのに特別な理由はなさそうだった。
けれど清水が東峰を指名したのには、実は1つだけ訳があった。
それは後輩のマネージャーの為であった。
後輩マネージャーの黒崎美咲は、入部当初からいたく東峰のことを気に入っており、つい先日も嬉しそうに東峰と話す彼女の姿を見たばかりだった。
本人は否定していたものの、女の感というのか、彼女が東峰に対して好意を抱いているのは明らかだった。
世話焼き婆のごとく、人の恋路にあれこれ口出しするつもりはない。
けれど、マネージャーとして共に過ごしていくうちに、彼女のことは清水の中で妹のようにとても可愛い存在になっていた。
お節介すぎてはいけないと思いつつも、清水は少しでも彼女の力になりたかったのだ。
3年が部活をしていられる時間は、もう残り少ない。
黒崎と東峰が共に過ごせる時間も、そう長くはない。
自分があっという間に3年になってしまったのだから、残り1年切った学生生活なんてまさしく光陰矢の如し、だろう。