第36章 夏合宿
試合後すぐの連続ダッシュなんて、見ているだけでもしんどい。
ダッシュし終えた汗だくの皆に、谷地さんと手分けしてタオルやドリンクを配って回った。
外に少し出ただけなのに、眩しさに目がチカチカして仕方ない。
寝不足の体に、直射日光は堪える。
暑さのせいか、皆の熱気のせいか、汗もダラダラと流れ出てきて前髪なんか肌にひっついてしまっていた。
「黒崎、すごい汗だな」
ダッシュを終えた部員達と同じかそれ以上に汗をかいている私を見て、旭先輩が目を丸くしている。
谷地さんや潔子先輩も汗をかいていたけれど、二人とも私ほどではなかった。
「そうですね…運動したわけでもないのに」
「代謝がいいのかな? 今日暑くなるって予報だったし、黒崎達も水分補給ちゃんとしておいた方がいいよ」
「はい、そうします」
旭先輩に促されて、谷地さんと一緒にペットボトルに口をつけた。
汗で流れ出て失った水分を補う様に、あっという間にペットボトル一本飲み干してしまった。
それでもまだ少し喉が渇くような気がしたけれど、皆がすぐに次のコートに移動を始めたから、慌てて谷地さんと一緒に皆からボトルを受け取って洗い場へと向かおうとした。
「おい、美咲ちゃん。大丈夫か?」
試合を終えたであろう衛輔くんが、ボトルを抱えた私を呼び止めた。
衛輔くんの顔はいつになく心配そうで、そんな衛輔くんに私は相変わらず心配性だなぁ、なんて呑気なことを考えていた。
「お疲れ様、衛輔くん。試合どうだった?」
「ん、ああ、勝ったよ。それより、美咲ちゃん大丈夫か? 体調悪いんじゃないか?」
衛輔くんの顔がぐっと近くなって、心配そうな目で私の顔を覗き込む。
ふいに伸びてきた衛輔くんの手の平が、額に伸びた。
瞬間、ヒヤリとして思わず「冷たい」と口にする。
「俺の手が冷たいんじゃなくて、美咲ちゃんが熱いんだよ。ちょっと休んだ方がいい。このままじゃ倒れそうだ」
「そんな…大袈裟だよ。さっき水も飲んだし、大丈夫…」
へらっと笑ってみせたけれど、衛輔くんの顔は険しいままだった。
そんな衛輔くんの顔がぐにゃりと歪んだかと思うと、天地がひっくり返った。
「美咲ちゃん!!」
衛輔くんの声が遠くで聞こえたような気がした。
私の意識はそこで途切れてしまった。