第36章 夏合宿
「先輩の気持ちはすごく嬉しいです。いつもありがとうございます。申し訳ないくらいです、気を遣わせてしまって」
「ううん。私に出来る事、そんなに多くないし」
「そんな事ないです」
またいつもの押し問答になりそうだ。
隣の谷地さんが一体何の話だろうって顔をしていたから、私達はそこで話をやめてしまった。
地面の大きな揺れを感じたのは、先ほどの一度きりだったけれど、睡眠不足は確実に体を蝕んでいる。
日中は気温も高くなりそうだし、体育館の中は熱気ですごいことになりそうだ。
いつも以上に体調に気を付けなければ。
倒れでもしたら、マネージャー失格だ。
気を引き締め直して、先輩達の後を追った。
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合宿の内容は、ひたすらに練習試合をローテーションでこなしていくというもの。
一試合目の相手は、私は初めて見る、梟谷との試合だった。
初っ端、影山君が珍しくトスミスをした。
影山君でもそう言う事があるんだなぁ、と思って試合を観戦していたのだけれど、今日はどうも調子が悪いようだった。
調子が悪いと言っても、日向とのコンビネーションが合わないだけで、他はいつも通りみたいだったけれど。
試合が進む中で、影山君だけでなく、他のメンバーも妙にいつもの力を発揮できていないように見えた。
「…なんか、今日は皆様子が…」
『変』と言っていいのかどうか、分からなかったけれど。
私の知ってる皆となにか違うような、違和感を覚えて仕方なかった。
そういえば、私が烏野に戻って来てから見た部活では、皆今までに無い事をやっていたっけ。
見たことのない攻撃パターンや、新しい練習。
私がいない間に、皆の中で何か変わったのだろう。
「インターハイ終わってから、皆今まで以上に『勝つ』ことに執着を見せてるからね。…今までと同じじゃ、ダメなんだって」
「……」
インターハイ、三回戦。
私が見られなかった、青城との試合。
伊達工に勝って勢いづいた烏野をねじ伏せた青城。
春高に出場する為にはその青城、さらには県内ナンバーワンの白鳥沢も倒さなければならない。
他の学校だって同じように日々研鑽を積んでいるのだから、皆が焦る気持ちもよく分かる。
試合は点差の開いたまま進み、一試合目は梟谷の勝利で幕を閉じた。
負けた方はペナルティとして、体育館裏の坂道でダッシュ10本こなさなければならないらしい。