第36章 夏合宿
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「あれっ、ひとり増えてる?」
荷物を置いた後、潔子先輩と谷地さんと連れ立って向かった先では、他校のマネージャーが四人、それぞれ合宿前の準備に取り掛かろうとしているところだった。
先日の短期合宿で潔子先輩と谷地さんは他校のマネージャーと顔見知りになっていたようで、四人のマネの視線は見たことのない私へと注がれていた。
「烏野1年、黒崎です。よろしくお願いします」
「よろしく~。この間の合宿には来てなかったよね? 最近入部したの?」
左胸に『梟谷』と書かれた紺色のTシャツを着た女子に尋ねられ、なんと説明したものか、一瞬言葉に詰まる。
「えっと…部には四月から在籍していたのですが…家の事情で、少し烏野を離れていまして」
「ふぅん? そうなんだ~。私は梟谷の白福です」
「同じく梟谷の雀田です! いいなぁ潔子ちゃんとこ、一年マネ二人もいて」
幸いなことに、白福さんも他のマネージャーも、『家の事情』について詮索することは無かった。
軽く自己紹介をして、すぐに始まる合宿の準備に追われることになった。
今回の合宿には、烏野、音駒、梟谷、森然、生川の五校が参加していて、音駒を除く四校にそれぞれマネージャーがいるみたいだった。
私と谷地さん以外は皆三年生で、皆綺麗な人ばかりだ。
潔子先輩達が参加した前回の合宿場所と違ったため、烏野マネ全員、森然高校の大滝さんに水場や洗濯場所等の案内を受ける。
その道中で、旭先輩達とすれ違った。
少し前の私だったら、素直に嬉しいと思えたに違いない。
だけど今は。
見えない旭先輩の気持ちや、今朝の車内での事や、色んなことが頭の中でぐるぐるして、軽く会釈するだけしか出来なかった。
頭を下げた時、ぐわんと地面が大きく揺れたような気がした。
「どうしたの、美咲ちゃん」
「…いえ、ちょっと立ちくらみしただけです」
「大丈夫? …もしかして、眠れなかった? ちょっとお節介しすぎたかな、今回は」
潔子先輩が申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。
睡眠不足の一因は、確かにバスの座席だったけれど。
潔子先輩が良かれと思って気を回してくれたのはよく分かっていたから、ぶんぶんと首を振った。