第36章 夏合宿
旭先輩が目を覚ましてしばらくすると、他の部員の人達も少しずつ目を覚ましはじめた。
窓からうっすらと差し込みはじめた朝日のおかげだろうか。皆、自然と起床のスイッチが入ったみたいだ。
さっきの事があったからか、旭先輩と私の間にはなんともいえない空間が出来ていた。
窓の外の景色を眺めている旭先輩の後ろ姿を見ていると、色んな感情が入り混じって、時折胸がちくんと痛む。
ちょっとだけ変な癖のついた旭先輩の後ろ髪に、さきほど触れていたことを思い出し、かぁっと顔が熱くなった。
あの時は何も考えずに触れてしまったけれど、誰かに見られてはいなかっただろうか。何より旭先輩に気付かれてはいなかっただろうか。
気持ちが落ち着かないまま、バスは森然高校に到着した。
到着してすぐに、赤いジャージの集団が私達のバスを出迎えるように待っているのが見えた。
音駒高校の人達だ。
駐車場から合宿所まで先導して案内をしてくれるようだ。
「美咲ちゃん!!」
衛輔くんが真っ先に私の元に駆け寄って来て、何か噛みしめるような表情で私の腕をぎゅっと握った。
「…良かった、来てくれて。会えてほんとに良かった」
「……うん。また会えて、私も嬉しい」
二回も、衛輔くんの前から黙って消えてしまった。
その事は私の中でも重しのようにずっと引っかかっていた。
こうやって直接顔を合わせられたことで、幾分か心が軽くなったけれど、やはりどこか衛輔くんに申し訳ない気持ちは消えなかった。
家族のように、ずっと心配してくれていた衛輔くん。
離れていた期間の方が長いのに、変わらず私を思ってくれている衛輔くんの優しさに、心が温かくなる。
「話したいこと、いっぱいあるんだ」
「毎日電話で話してたのに?」
「それとこれとは別だよ」
おどけて返した私に対して、衛輔くんは真剣な顔をしていた。
いつもの笑顔の衛輔くんがいなくて、少しだけドキリとする。
たまに見せる凛とした表情に、衛輔くんも男の人なんだなぁ、なんて思ってしまう。
「…? 美咲ちゃん、何かちょっと顔色悪くねぇか?」
「そう?」
「夜通しバスの中だもんな。ちゃんと眠れなかったんじゃねぇ?」
図星を突かれて一瞬ドキリとした。
だけどすぐ近くにみんながいる。
寝てない、なんて知られるわけにはいかなかった。