第35章 先輩の気持ち
頑なに衛輔くんの申し出を断ってしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
衛輔くんは小さな頃から私の事を家族のように思ってくれていて。
離れてしまってからも、なんだかんだ気にかけてくれて。
色々と私のことを心配してくれているのに…電話くれたのに上の空になったりして…。
衛輔くんの気持ちに応えなくてはと思うのに、心は旭先輩のことでいっぱいになってしまう。
今日、日向に「皺が出来てる」って言われちゃうくらい、顔に気持ちが出てしまうくらい、私の胸の中は旭先輩のことでいっぱいなんだ。
ちらと、見やった旭先輩はいつもと変わらず優しい顔で私を見ている。
ああ、今すぐに気持ちを伝えてしまえたら。
そう出来たなら、どんなに……。
…そう思うけれど、まだ口にしてしまうのは怖い。
ひとまず携帯を旭先輩に返そうと先輩に声をかける。
「旭先輩。携帯、ありがとうございました」
「ううん、いいよ。こちらこそ、ありがとう」
「?」
「夜久と二人で話したいだろうに、俺まで入れてくれて」
「いえ、それは……むしろ本当にこちらが申し訳ないというか。衛輔くんとも話たんですけど、携帯、早いうちになんとかしようと思います」
「気にしなくていいのに。俺は今のままで構わないよ」
旭先輩の言葉に、ドキリとした。
先輩の真意が見えない。
これは単なる『優しさ』から出た言葉なんだろうか?
『優しい』からって、ここまでしてくれるものなのだろうか?
私は旭先輩にとって『特別』なんじゃないかって、またそんな自分勝手な思いを抱き始めてしまう。
旭先輩。
貴方は無意識に思わせぶりなことをする人なんですか?
それとも……。
「…やっぱり、自分のないと何かと不便ですし。友達とも、連絡取れないから」
「あー、それは確かになぁ。今クラスの連絡も携帯にきたりするしな」
そうだなぁ、ともう一度旭先輩がつぶやいて、携帯を鞄にしまった。
先輩が何を考えているのか、やっぱりよく分からない。
また私の思いが一人勝手に暴走しちゃってるだけかもしれないけれど。
家までの帰り道、私はまたぐるぐると同じ悩みにはまり込んでいってしまったのだった。