第35章 先輩の気持ち
だけど私には、衛輔くんの言葉は、祖母に言われたことと同じように聞こえてしまったのだ。
―貴方一人いなくとも、部に影響はないでしょう―
冷ややかな目でそう口にしたあの祖母の言葉と、同じように。
まるで自分の存在を否定されたかのような、そんな気持ちになってしまった。
衛輔くんの言葉に顔を曇らせた私を見て、旭先輩の眉根がきゅっと寄っていく。
私が思っていることに、旭先輩は気が付いたのかもしれない。
とん、と背中に旭先輩の手が優しく触れた。
ふと、私のすぐ横に旭先輩の熱を感じた。
いつからこんなに距離が縮まっていたのだろう。
さっきまではもう少し、先輩との間に隙間があったはずなのに。
意識してしまうと、携帯を持つ手が緊張で震えてしまいそうになる。
こんなにそばにいたっけ?
動けば触れるような位置にいたっけ?
お互いの熱を感じられそうなほど、そばに。
一つの携帯で衛輔くんと会話をしているから、自然と距離が縮まったのかもしれない。
だけど。だけど。
いつの間にか詰められていた距離の意味を考えてしまう。
違う、ただ単に携帯が一つだから、距離が近くなったんだ。
そう思うのに。
鼓動の音が旭先輩に聞こえているんじゃないかってくらいに、脈がどんどんと速くなっていく。
携帯を握りしめたまま、旭先輩の目を見つめて固まってしまった。
旭先輩も、私をじっと見たまま動かない。
『…美咲ちゃん?』
返答に間が空いてしまったから、衛輔くんが心配そうな声でこちらの様子をうかがってきた。
また旭先輩のことで上の空になってしまったなんて分かったら、衛輔くんどんな気持ちになるだろう。
「あ、ご、ごめん」
『いや、なんか急かしちゃったかな、返事』
「ううん、そんな事ないよ。……衛輔くんのお誘いは嬉しいけど、私、この夏は烏野バレー部のみんなを精一杯サポートしたいの。…今しか、出来ないことだから。確かに私がいなくても部活に支障はないかもしれない。…でも、私が、したい事だから。だから、泊まるのは、出来ない」
『そうか…。分かった。残念だけど、また機会はあるだろうし。じゃあ合宿で会えるの楽しみにしてる。今日はこのくらいで。美咲ちゃん、またな。東峰も、携帯ありがとう』
そう言って、衛輔くんは電話を切った。