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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第1章 一枚のビラ


偶然だと思っていたけれど、今思えばあれは必然だったのかもしれない。
あのたった一枚の紙に、導かれるように、私の足は体育館へと向かっていた。

さかのぼること1時間前。
校内1美人だと噂の3年生の先輩が、1年の教室の前を何かを探すようにうろうろしていた。
手には大量のビラを持ち、すれちがう生徒1人1人に声をかけてビラを手渡そうとしている。
そんな先輩の姿を私は教室の中からなんとはなしに眺めていた。
すらりとした長い手足、輝くように流れる黒髪、知的な眼鏡に色気の漂う口元のほくろ。
ああ、こんな人に生まれたかったな、なんて思った。
彼女のように美しく生まれたならば、きっと人生毎日楽しいだろう。
教室中の生徒が彼女を羨ましそうに眺め、男子にいたっては鼻の下をのばす者多数。
きっと大した苦労もなく、人生を謳歌しているのだろう、なんてちょっと妬みながら眺め続けている先輩は、どこか寂しそうな悲しそうな顔をしていた。

(あんな美人でも苦労するんだ…?)

彼女の手にある大量のビラは多少は数が減っているものの、受け取りを拒否されることの方が圧倒的に多いようだった。
一体何をあんなに熱心に配っているのだろうか。
ほんの少しだけ興味が沸いたものの、わざわざそれを確認するためだけに席を離れるのも面倒くさい。

「ね、あの先輩何してるんだろうね?」

隣に座るクラスメイトに問いかけると、すぐさま答えが返ってきた。

「男子バレー部のマネージャー探してるって。今はあの清水先輩しかいなくて来年マネがいなくなるから困ってるみたいよ。」

「へー、そうなんだ」

「…あ!あんた帰宅部だったよね?ちょうどいいじゃん!」

言うなり目の前のクラスメイトは教室から顔を出すなりこう叫んだ。

「あのー!!清水せんぱーい!!ここにマネージャー候補いますよー!!」

「えっ、ちょっと待って、私…」

誰もマネージャーをやるとは言っていないのに、何を勝手なことを言っているのだろう?!
単に何をしていたか気になっただけだったのに、清水先輩はとっても嬉しそうな顔でこちらに向かって来ているし、隣のクラスメイトは満面の笑みだ。

「あっ、あなた、マネージャーやってくれるの?!」

弾むような声で私にそう問う清水先輩の目は輝いている。
元来頼まれると嫌とは言えない性質の私は、その目の輝きにノーとは言えなかった。
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