第35章 先輩の気持ち
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帰り道、私も旭先輩もどこかぎこちなくて、いつものように会話が続かない。
半ば習慣化してしまっている旭先輩との帰宅を、避けるのは難しかった。
好きだから、やっぱり少しでもそばにいたいし。
同じ時間を過ごしたい気持ちはある。
だけど、色々と考えてしまって。
一緒にいて楽しい時間のはずなのに、どこか重い空気が漂ってしまって困ってしまった。
そうさせているのは私だって、自覚はあるのに。
旭先輩とどう接していいのか、分からない。
会話が途切れて、何度目か分からない沈黙が訪れた時、旭先輩の携帯が鳴った。
ちょっとごめん、と旭先輩が断りを入れたので、私は小さく頷き返す。
「もしもし。ああ、うん。横にいるよ」
ちら、とこちらを見た旭先輩と目が合う。
電話の相手は、どうやら私の事を尋ねているらしい。
きっと衛輔くんだ。
「黒崎、夜久から電話だよ」
そう言って旭先輩は自分の携帯を差し出して来た。
差し出された携帯を受け取って、電話に出る。
「もしもし、衛輔くん?」
『美咲ちゃん! 元気か?』
相変わらずの第一声に思わず笑ってしまう。
電話越しの衛輔くんも私の笑い声につられて笑っている。
『毎日暑いな。そっちはどう? 宮城って涼しそうなイメージだけど』
「こっちも蒸し暑いよ。東京よりかは、涼しいかもしれないけど」
『そうかぁ。まぁ夏だからな。だからって窓開けっぱなしで寝冷えしないように気をつけろよ、美咲ちゃん』
「もう、また子ども扱いして」
祖母の家に連れて行かれるまで、衛輔くんはいつも同じように電話越しに、『ちゃんと布団来て寝ろよ』とか、『風邪ひくなよ』とか、とかく私の体調を心配してくれた。
宮城に戻ってきてから、旭先輩の携帯を借りて連絡を取るようになってからも、それは変わらない。
心配性なお父さんみたいだな、なんて思いつつ、衛輔くんの
あったかくて優しい気持ちに自然と顔がほころんでいく。
衛輔くんと少し話をしたところで、横にいた旭先輩がくしゃみを一つした。
旭先輩は私達に気を遣ってか、私から少し距離を取って佇んでいる。
街灯に照らされた旭先輩の横顔を見たら、何故だか胸がつきんと痛くなった。
衛輔くんと話をしているのに、旭先輩の事が気になる。
携帯から聞こえてくる衛輔くんの声が少しずつ私の意識から遠ざかる。