第35章 先輩の気持ち
昼休みに見た光景が、ずっと頭から離れなかった。
女子に囲まれてされるがまま髪を梳かされていていた旭先輩の姿が嫌でも頭に浮かんでくる。
昨日の愛梨さんのこともあったし、旭先輩のことがよく分からなくなっていた。
そんな気持ちのまま向かった放課後の部活で、私はまた嫌な光景を目にしてしまっていた。
私の視線の先には、何やらほのぼのとした雰囲気で話す仁花ちゃんと旭先輩の姿。
休憩中の何気ない日常のシーン。
漏れ聞こえてくる会話の内容も、毎日暑いだとか、夏休みの課題が恐ろしいとか、なんてことはないもの。
なのに、笑顔の二人を見ていると、胸がしくしくと痛む。
この感情が何かはよく分かってる。
『嫉妬』
それ以外の何物でもなかった。
同じマネージャーとして頑張っている仁花ちゃんに対して、そんな感情を抱いてしまう自分に嫌気がさしながら、私は一つため息をついた。
「どうしたの黒崎さん。ココにすっげぇ皴出来てるよ」
私の顔を覗き込んだ日向が、自身の眉間を指さしながらそんなことを言ってきた。
「えっ、皴?!」
「うん、跡残りそうなくらい。なんか悩み事?」
顔にまで出てしまっていたとは。
こんな気持ちを部員に知られるわけにはいかない。
部活中に個人的な、それも恋愛の事なんて持ち込んで、何にもいいことなんかない。
「悩み事……ううん、ちょっと考え事してて。大丈夫、何でもないよ」
なんとか笑顔に切り替えて、日向に答える。
日向は邪推はせずに、私の言葉通り受け取ってくれたようで、それ以上あれこれ聞いてくることはなかった。
「そう? なんか困った事あったら教えて」
「日向、お前相談なんかのれんのか」
「バカにすんなよ影山! 話聞くくらいは俺にも出来るぞ!」
途中から影山君といつものように口論を始めて、日向は私から離れていった。
日向の声が大きかったから、それまで仁花ちゃんと話をしていた旭先輩が、ちらとこっちを見たかと思うと、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
心臓の音がどくんどくんと大きく聞こえてくる。
ただ旭先輩が近づいてきているだけなのに、胸が苦しくなってくる。
嬉しいような、今は近づいて欲しくないような。
自分でもよく分からない感情がぐるぐると渦巻いている。
「黒崎、どうした? 何かあったのか?」
「いえ…別に、何も」