第34章 距離感
世間一般の答えが、そのまま旭先輩達に当てはまるわけじゃないけれど、気になって仕方が無かった。
しばらく私の頭の中は、あの二人のことでいっぱいだった。
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「美咲ちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど」
「何? どうしたの?」
昼休みに入るなり、友達が声をかけてきた。
聞けば、部活のことで先輩のところに行かなくちゃならないけれど、一人だと心細いからついてきて欲しい、ということだった。
「いいよ、行こっか」
「ありがとう~! 三年の教室ってちょっと行きづらくてさ」
友達と三年の教室まで足を運び、無事友達が部活の先輩を見つけた。何事か話し込み始めた友達とその先輩から少し離れて、なんとなしに教室の中を眺める。
教室の後ろの席に、やたらと女子生徒が集まっている席があって、自然と目がいった。女子生徒達は席にいる人物を中心に、何やら賑やかに盛り上がっていた。
「ねー、髪の手入れどうしてるの? すっごいサラサラだよね」
「そう? 普通にシャンプーとコンディショナーしてるだけだよ」
「うそー! 絶対他にも何かしてるでしょー」
賑やかな声の中に、聞き覚えのある声が混じっている。女子生徒の間からちらりと覗く中心人物の姿に目を凝らせば、見慣れた人の姿があった。女子に取り囲まれていたのは、旭先輩だった。
「東峰の髪、ホント綺麗で羨ましい」
「ねー」
旭先輩は女子生徒にされるがまま、髪の毛を梳かされていた。いつも後ろで結んでいる髪の毛が、下ろされて肩のあたりまで流れている。
GW合宿の時に目にした、髪を下ろした旭先輩の姿。特別なものだと思っていたのに、あんな風に女子に取り囲まれているのを見ると、彼女達は日常的に髪を下ろした旭先輩の姿を見ているんじゃないかって気がする。
胸の奥が、ズキン、と音を立てて痛み始めた。
旭先輩は、優しいから。誰にでも、優しいから。
私だけが特別なんじゃなくて、誰にでもそうで。
宮城に戻ってきた時、旭先輩に偶然出会ったあの時、私を抱きしめてくれたのも、合宿の時になぐさめてくれたのも、全部、旭先輩が『誰にでも優しいから』
お守りを喜んでくれたのも? 一緒に帰ろうって誘ってくれたのも?
一度そう思い出すと、もう止まらなかった。
痛む胸をおさえて、私は静かに教室から離れた。