第34章 距離感
「分かった、分かったよ旭。もう、言わないで。もう十分、分かったから。…さすがの愛梨さんも、そこまで滅多打ちにされるとへこみます」
「…っ、ご、ごめん…」
「そうまで言わないと、私が諦めないと思ったんでしょ? …旭には敵わないわ、ホント。そういうとこ、すっごい好きなんだよね……振られちゃったけど」
てへへ、と笑いながら舌を出して、愛梨はおどけてみせる。悲しい時ほど無理して笑う強がりなところは、変わってないみたいだ。
「…変わったね、旭」
「えっ…?そう?」
「うん、変わったよ。前の旭だったら、きっと私に押し切られちゃってたと思う。なし崩しにヨリ戻して、付き合い続けて、そのまま結婚しちゃってそう」
「さすがにそこまでは…」
言いかけて、愛梨の言葉もあながち間違いじゃないような気がしてくる。
これまで誰かと付き合う時はいつだって流されるように付き合いが始まっていた。
付き合ううちに、それなりに相手の事を好きになったし、楽しく過ごせた。
告白も、別れ話も、全部相手任せで。俺はただ素直にそれを受け入れてきただけだった。結婚しよう、と言われれば、それも受け入れてしまっていたかもしれない。
「でもさ、そんなに大事なんだったらさ。なんでさっきあの子の前でハッキリ言わなかったの? 『好きな子がいる』って。言っちゃえば良かったのに」
「それは……」
黒崎の前では言えなかった。
勇気を出さなくちゃ、とは思ったけど。あそこで『好きな子がいる』と言えるほど、俺にはまだ自信が無かった。
「もしかして、今微妙な関係だったり? 友達以上恋人未満的な? あ、先輩後輩以上恋人未満、かな?」
「う……」
「図星かぁ。そういうとこは、変わらず旭らしいね」
愛梨の言葉に、俺は後頭部を掻くしかなかった。
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*ヒロインside*
愛梨さんが現れた翌日。
結局あの二人がどうなったのか分からないまま。旭先輩とまたぎくしゃくした感じで、朝練の時間は終わった。
旭先輩に聞くつもりはなかったし、向こうから話してくれる感じもなさそうだった。
付き合ってるわけでも、なんでもないから。当たり前と言えば当たり前なんだけど。
昨日からずっと胸のあたりがしくしくしてる。
元カノとヨリを戻す人ってどれくらいいるんだろう。