第34章 距離感
軽く頭を下げて、その場から立ち去ることにした。
旭先輩は何か言いたげな顔をしていたけれど、顔を見ると胸がちくちく痛んで、それ以上その場に留まっていられなかった。
二人がどうなるか分からない―……もし、ヨリを戻してしまったら。
嫌な想像ばかり浮かんでくる。そんな想像を打ち消そうと頭を振って、家まで駆けだした。
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*東峰side*
黒崎の後ろ姿を見送って少しして、俺は愛梨の方に視線を移した。愛梨はじっとこちらを見つめたまま、俺の言葉を待っていた。
「…ごめん、愛梨。俺、ヨリは戻せない」
「……理由、聞いてもいい?」
ちょっとだけ、愛梨の強い視線にたじろぎながらも、俺は静かに頷いて、答えることにした。
「大事にしたい子が、いるんだ」
「…それって、やっぱり」
愛梨の言葉に、俺はまた静かに頷く。察しの良い彼女のことだ。多分、聞かなくても本当はずっと前から気が付いていたはずだ。
「うん。一緒に帰ってた、あの子のことだよ」
「…そっか…そうなんだ……。旭にしては、可愛いタイプの女の子選んだね?」
愛梨は相変わらず明るい笑顔で話していたけれど、その笑顔はどこか無理した作り笑いに見えた。強がるところがある彼女だったから、今も無理をしているのかもしれない。
少し胸が痛んだけれど、こういう時変に優しさをみせてはいけないのだと、今までの経験で分かっている。
「初めて、自分から好きになった子なんだ」
俺の言葉に、愛梨の目が大きく見開かれた。この言葉が、どれだけ愛梨の自尊心を傷つけるかよく分かった上での発言だった。
つけ入る隙は無いのだと、ハッキリ伝えたかった。そうしないと、彼女はきっと諦めなかっただろうから。
「……私と付き合いだしたの、私からだったもんね、告白。…私だけじゃない、他の子と付き合うのだって、旭はいつだって告白される側で……そして振られる側だったよね」
「…そうだね」
一瞬、間が空いて。大きなため息とともに、愛梨は口を開いた。
「そっかぁ~! そんな旭が、旭から好きになったのか~!! それは、敵いそうにないねー…」
「今は、あの子のことしか見えてないから」