第34章 距離感
「二人が付き合ってるんだったら、ヨリ戻そうって言えないからさ。確認しときたくて」
「……えっ?!」
「やだ、そんなにビックリしなくてもいいでしょ。なんか傷つくんだけど」
愛梨さんがさらりと『ヨリを戻す』って口にした。そんな言葉が出てくるってことは、やっぱりさっきの嫌な予感は当たってしまったみたいだ。
……二人は、以前付き合ってたんだ。
やけに近いと思った二人の距離感は、そういった過去が二人の間にあったからだろう。
「相手は美咲ちゃんじゃなくて、他に彼女がいるとか?」
「いない、けど……」
「そうなんだ。じゃあ、大丈夫だね」
「え、と……」
「彼女いないんだったら、立候補しても問題ないよね?」
「それは……」
旭先輩は愛梨さんの言葉に押されっぱなしで、困った顔で笑うだけだった。
私は、旭先輩の彼女ではないし、告白だってしてないから、先輩は私の気持ちを知らないんだと思う。
だけど、もしかしたら旭先輩は私のことを好きでいてくれているのかもしれない、なんてちょっとだけ思ってたから……愛梨さんの申し出をハッキリ断ってくれない旭先輩の姿に胸が痛んだ。
やっぱり自分に都合のいいように、色々解釈しちゃってたのかな。
「それとも、好きな人がいるとか?」
煮え切らない旭先輩の態度に、愛梨さんはなおも切り込んでいく。旭先輩は小さく「えっ」と漏らして、固まってしまった。
「遅かったかな、私。…離れてみて、ようやく分かったんだよね。旭がどれだけ素敵な人だったかってこと。別れ切り出したの、私なのに…勝手なこと言ってるって、分かってるけどさ」
「…愛梨……」
旭先輩が呟いた愛梨さんの名前。ただ名前を呼んだだけなのに、ひどく胸が痛い。
付き合ってたんだから、彼女だったんだから、名前を呼ぶの抵抗ないんだと思う。たとえ別れてたって、この二人は仲が悪いわけじゃないみたいだし……そう頭では理解できるけど……。
これ以上、この二人のやり取りは見たくなかった。二人がどうなるのか気にはなったけれど、その結果を知る前に心が壊れてしまいそうだった。
「…あの、私、先に帰りますね。込み入ったお話、みたいだから」
「あっ、ごめん、美咲ちゃん。急にこんな話し出して」
「いえ、私こそすみません、気を回せなくて……」