第34章 距離感
「先輩? ってことは、元烏野高生ッスか?」
田中先輩の問いかけに、三年生はこくりと頷いた。
「去年まで烏野高校通ってましたー!」
明るい声で女性が言う。旭先輩達の先輩だと言う女性は、やけに三年生達と親し気な雰囲気を漂わせている。バレー部のマネージャーでもしていたのだろうか。でも元マネージャーだったら、田中先輩達が知らないはずはない。
「先輩、県外の大学に行ったんじゃなかったんですか? なんで今ここに?」
「ふふふ、スガちゃん! 実はもう私は夏休みなんですよ!実家に帰省中なんだ。散歩してたら懐かしくなってさー、学校まで来てみたの」
「散歩って……こんな遅い時間に一人で出歩いてたの? 不用心すぎない?」
女性の言葉に、旭先輩が心配そうな顔になった。それを見た女性はどこか嬉しそうな顔をして、にっこりと旭先輩に微笑む。
「なぁに、旭。心配してくれてるの? だったら家まで送ってくれない? 今から帰るんでしょ?」
女性のお願いに旭先輩は一瞬戸惑いを見せた。でも辺りはもう真っ暗だったから、結局その女性も一緒になって帰ることになった。
道すがら、女性から自己紹介をうけて、挨拶を交わした。彼女は旭先輩達の一つ上の先輩で、浜名愛梨さんという人だった。
「懐かしいなー。こうやって旭と帰るの」
愛梨さんの楽しそうな声が響く。じわじわと胸の中に嫌な予感が浮き上がってくる。愛梨さんと旭先輩の関係は、きっとただの先輩後輩じゃない気がする。
旭先輩は愛梨さんと帰ることになってからずっと、困った顔をしたまま口数が少ない。それを横で見ている私も気まずい思いだった。
ただ一人、愛梨さんだけが楽しそうに笑っている。
「…ね、旭と美咲ちゃんって付き合ってるの?」
愛梨さんが突然、そんな質問を投げかけてきたものだから、私も旭先輩もびっくりしてしまった。旭先輩と顔を見合わせて、二人同時に愛梨さんの方を見る。
「あれ、図星だった?」
「えっ、いや、その……」
「いやさ、実は昨日二人が帰ってるとこ見かけたんだ。その時えらく親密そうな雰囲気だったから。付き合ってるのかなーって」
傍から見たら、私と旭先輩はそういう関係に見えるなんて初めて知った。昨日はいつもと変わらずつかず離れずの距離だったと思うんだけど…特に親密にしていた覚えは私には無かった。