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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第34章 距離感


 烏野に戻って来て、初めての週末を迎えた。
来週にはもう夏休みに入るからか、みんなどこか楽し気な雰囲気だ。

 武田先生から、夏休みに入ってすぐ、森然高校での夏合宿があると聞かされた。
私が烏野にいなかった間に、すでに一度梟谷学園というところで一泊二日の強化合宿に烏野は参加しているそうだ。

 音駒の監督の計らいで、梟谷学園グループの合宿に参加させてもらえることになったらしい。

 私が参加したのはGW合宿だけで、それも烏野のメンバーしかいなかったから、他の学校も参加しての泊まり込みの合宿の話を聞いて、少しワクワクした気持ちになっていた。

 そんなある日の帰り道。
みんなで連れ立って校門まで歩いていた時のことだった。

「あさひー!」

 校門のところで、すらりとした髪の長い女性がこちらに向けて大きく手を振っている。
『あさひ』
確かに女性はそう叫んでいた。ちらりと隣の旭先輩を見ると、先輩は驚いた顔で女性を見つめている。

「旭さん、知り合いですか?」
「めちゃくちゃキレーなおねーさんじゃないっすか! あっ、もしかして彼女?!」

 西谷先輩と田中先輩が振り返って、旭先輩に問いかけた。
問われた旭先輩はぶんぶんと首を振って答えた。

「いや…彼女じゃない、けど……」

 どこか言いにくそうに言葉尻を濁してしまった旭先輩に、みんな不思議そうな顔をしている。
校門にいる女性はそんな旭先輩の様子などお構いなしに、笑顔で手を振り続けていた。

「やっほー、旭!」
「久しぶり……どう、したの?」
「やだ、なんでそんなよそよそしいのよ」
「ご、ごめん……」

 困惑した顔で応対する旭先輩をよそに、女性は親し気に先輩に近づき話かけてきた。その距離の近さに、私は少しだけ嫉妬にも似た感情を抱いていた。
先輩に姉がいるという話は聞いたことが無いから、家族の人ではないと思う。

「なんかまた背伸びたんじゃない?」
「そうかな…そんなに変わってないと思うけど」

 女性は旭先輩の肩に手を置いて、自分の頭と先輩の頭の間をもう片方の手を行き来させて身長差を比べる。いやに顔が近づいた気がして、胸がちくりと痛んだ。

「あっ、スガちゃんに澤村くんもやっほー! 君達もちょっと逞しくなったね。三年生の貫録ってやつかな」
「そうですか? 俺らもそう変わってないと思いますけど…お久しぶりですね、先輩」
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