第33章 初対面。
朝練が終わるまで、谷地さんと一緒に過ごし、少しずつ彼女との距離を縮めていった。
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烏野に戻ってきた初日はあっという間の一日だった。放課後の部活もその後の自主練の時間もすぐに過ぎてしまって、帰宅の時間になった。
それだけ、私の中で充実していたんだと思う。みんながボールを追う姿を見ているだけで、胸がいっぱいだった。
帰り道、久しぶりに旭先輩の隣を歩いた。
昨日道端で会ってから話をしただけで、二人きりで話してはいなかったから、話したいことはたくさん胸の内にあった。
だけど、何から話そうか迷ってしまって、なかなか口を開けなかった。それは旭先輩も同じだったのか、妙な沈黙が続く。
そんな中、旭先輩の鞄から携帯の着信音が流れ始めた。立ち止まった旭先輩に合わせて私もその場に立ち止まる。
取り出した携帯の画面を見た旭先輩は慌てた様子で、電話に出た。
「もしもし? あぁ、ごめん。え? 携帯? ……ちょっと待ってて」
言って、旭先輩は携帯を耳から離してこちらを向いた。
「なぁ黒崎。今携帯持ってるか? …夜久に、こっちに戻ってきたこと連絡した?」
「あ、いえ……携帯は取り上げられてしまって…今手元にないんです。衛輔くんにもまだ連絡は…」
「そうだったのか…じゃあ、電話代わるな。夜久からだから。…黒崎の事、ずっと心配してたぞ」
「すみません、お借りします」
旭先輩から携帯を受け取って、電話に出ると耳元で衛輔くんの大きな声が響いた。
『美咲ちゃん?! 元気だったか?! 連絡取れなくなって、ずっと心配してたんだぞ! 宮城に帰ってきたってホントなのか?! 携帯は? なんで俺に連絡してくれないんだよ』
すごく大きな声だったから、旭先輩にも全部聞こえていたみたいで、旭先輩は衛輔くんの言葉に苦笑いしている。
「ごめんね。携帯、今手元に無くて。衛輔くんの番号とか控えてなかったから…連絡できなかったの。心配させてごめんなさい」
『…そっか…。いや、俺こそごめん。捲し立てちまって。急に連絡取れなくなったから、昔のこと思い出してしまってさ……怖かったんだ。また会えなくなるんじゃないかって』
「…うん。私も怖かったよ。全部、無かったことにされそうだったから。今までのこと」