第33章 初対面。
私物を取り上げられて、過去の事は全て忘れてしまえと何度言われたか。ここに戻ってきた今となっては、これまでの一ヶ月が夢の中の出来事みたいに思えるけれど、こうやって衛輔くんの心配そうな声を聴いていると、現実だったのだと改めて思い知らされる。
『無事に連絡取れて良かったよ。…でも困ったな。携帯無いんじゃすぐに連絡つかないな』
「そうだね…。新しいの、買えるかどうかも分からないし…」
取り上げられた携帯は、もう解約されていると思う。過去を忘れろと何度も言っていた祖母のことだから、多分そうだろう。
かといって、新しい携帯を買うお金は持っていない。お金があったとしても未成年の私だけでは買えないだろうし。祖母に頼めば携帯の一つくらい買ってもらえそうだけど、それは嫌だ。
ふいに旭先輩にとんとんと肩を叩かれ、顔を上げる。旭先輩と目が合うと、先輩はおずおずと、ある提案を持ち掛けてきた。
「あ、あのさ…だったら俺の携帯でやり取りしたらいいんじゃない?」
「え、でも…それはさすがに先輩に悪いです」
携帯があった時は、ほぼ毎日衛輔くんとやり取りをしていた。毎日こんな風に旭先輩の携帯を借りるというのは心苦しい。知られてマズイやり取りをするわけじゃないけれど、旭先輩に色々知られるのは少し恥ずかしい気もするし。
「夜久は? 黒崎と連絡つかないの不安なんだろ?」
旭先輩は電話の向こうの衛輔くんに問いかけた。電話口からは悩むような声が漏れ聞こえるだけで、しばらく沈黙が続いた。
『…東峰、お前俺に言わせないようにしてんのか?』
「……さぁ。どうだろうな」
『お前、意外と悪い奴だな』
衛輔くんの言葉に、旭先輩は意味ありげな顔で口端だけあげた笑みを浮かべている。二人の会話を聞いても、何の事だかよく分からなかった。
『…毎日とは言わない。だから少し力を借りてもいいか、東峰』
「おう」
二人がそう取り決めをして、旭先輩の携帯を通して、衛輔くんとやり取りすることになった。私は先輩の携帯を借りるのはどこか申し訳ない気がしてならなかったけど、旭先輩も衛輔くんも、何故か譲らなくて二人に押し切られる形になった。
「すみません。早く携帯なんとかします」
「…いや、いいよ。俺としてはこっちの方が助かるから」
「……?」
旭先輩が何故助かるのか、よく分からなかった。