第33章 初対面。
何もかも初めてのことで、不安しかなかったあの頃。それでもマネージャーをやってみよう、続けてみようと思えたのは先輩達の後押しがあったから。
私もあの時の先輩達と同じように、谷地さんの背中を押してあげられたら。うまくいくか分からなかったけれど、自分の気持ちを素直に言葉にしていった。
「だけどね、先輩達に『それでもいいんだよ』って背中押してもらったの。誰だって始めのうちは失敗するよ。まだ入部して一ヶ月くらいでしょ? まだこれからだよ、谷地さん」
「黒崎さん……」
「それに、ね」
谷地さんが、どんな子かは正直まだよく分からない。ありのままに全部話してもいいものか、ちょっと悩んだ。もし口の軽い子だったら、誰かに話してしまうかもしれない…。そんな不安が頭をよぎったものの、彼女を引き留めるには理由を話すしかないような気がして、少しボカシながらも打ち明けることにした。
「…私、来年また烏野から離れないといけないんだ」
「えっ、そうなの?!」
驚いた顔で谷地さんが私を見ている。今日烏野に戻ってきたという話をしたばかりなのに、またどこかへ行くなんて、何も事情を知らない谷地さんからしたら、訳が分からないだろう。
「うん…。ちょっと、家の事情でね。でも、この事は他の人に言わないで欲しいんだ。変な心配、かけたくないから」
「…そっか…うん、分かった。誰にも言わない」
「ありがとう。…来年も、みんなをフォローしてあげて欲しいから…谷地さんには、マネージャー続けて欲しいな」
自分勝手なお願いだとは思ったけれど、来年以降も誰かにマネージャーを引き継いで欲しいと思ったのは確かだった。
本当だったら、私自身がそのマネージャーになりたかったけど…。
「私に出来るかな…黒崎さんも、清水先輩もいなくなっちゃったら……」
不安そうな顔で、谷地さんが呟く。会ったばかりなのに来年の話なんかして、失敗だったかもしれない。自分に自信が持てないでいる谷地さんにとってはなおさら。
「ごめん、プレッシャーかけるようなこと言って。…今は、マネージャー業務一緒に頑張ってくことだけ考えよ?」
「う、うん」
まだ不安そうな顔をしながらも谷地さんは頷いた。
私はいつも自分の事を考えてばかりだ。もっと相手の事を考えれあげるようにならないと。