第33章 初対面。
その子を追いかける形で、体育館の入口へと近づくと、中から潔子先輩がひょっこり顔を出した。
潔子先輩は私の顔を見たまま、固まってしまった。おそるおそる声をかけると、潔子先輩が無言のまま抱き着いてきた。
「…潔子先輩。私、帰ってきちゃいました」
あんなに騒いだのにごめんなさい、と言葉を続けると、潔子先輩はぶんぶんと首を振る。
「お帰り。待ってたよ、美咲ちゃん」
潔子先輩の目が少しだけ潤んでいるように見えて、目の奥がじんわり熱くなってくる。
入り口でのやり取りに、何事かと体育館の中の視線が一斉にこちらを向く。視線を感じて中を見渡せば、少し逞しくなったようなみんなと目が合った。
「…えっ?! 美咲ちゃん?!」
「黒崎さん?! 転校したんじゃなかったっけ?!」
驚いた顔をしながらも、みんながこちらに駆け寄ってくる。田中先輩や西谷先輩は飛び掛からんばかりの勢いだったから、それを潔子先輩と菅原先輩が制止してくれた。
「改めてお帰り、黒崎」
後ろの方から旭先輩が声をかけてくれた。以前と変わらない、あの優しい笑顔で。
「えっ、旭さん知ってたんですか?!」
「うん。昨日、黒崎に会ったからね」
「なんで教えてくれなかったんスか? 水臭いっスよ」
田中先輩と西谷先輩が詰め寄ると、旭先輩は困った顔で笑っていた。
「お帰り、ってことは、これから烏野にいるってことか?」
「…はい。この間はお騒がせしました。またよろしくお願いします」
頭を下げると、田中先輩と西谷先輩は満面の笑みで応えてくれた。ただ、離れた場所でこちらを見ていた月島くんだけは、冷めた目をしていた。
「あれだけ騒いでおいて、一ヶ月で出戻るってどういう事なの。あっさり受け入れる先輩達は器が大きいですね」
「月島、お前なぁ」
「水差すようなこと言うなよな」
月島くんの言うことは、最もだ。予選直前にあんな騒ぎを起こして、そのまま姿を消してしまった。なのに何事もなかったように一ヶ月で戻って来て、またよろしく、なんて虫が良すぎるかもしれない。
「…だって、そうデショ。あんな騒ぎがあったから、試合だって負けて」
「それとこれとは関係ないだろ。…試合に負けたのは、単に俺達の力不足なだけで」
「全く影響が無かった、とは僕は思えませんけどね」