第33章 初対面。
昨日まで着ていた白い制服にしばしの別れを告げて、紺色のブレザーに袖を通す。烏野に戻ってきた。そんな実感が、ますます強くなった。
ただ制服を着ただけなのに、なんだかそわそわして落ち着かない。
学校までの道のりも、急ぐ必要なんて全然ないのに自然と小走りになってしまった。
一ヶ月前までいたクラスに飛び込むと、中には誰もいなかった。窓から差し込む朝日に照らされた机と椅子だけが、私を出迎えてくれていた。
きまり悪そうに一つだけ列から飛び出た机と椅子が、私の席らしい。クラスメイト達に会ったらなんて話そうか、なんてことを考えながら荷物を置いてとりあえずジャージに着替えることにした。
今日もいつも通りに朝練をやるのだと、昨日三年の先輩達に確認しておいた。まだ三年生の先輩達以外の部員とは顔を合わせていない。
一ヶ月で出戻ってきた私を、みんな受け入れてくれるだろうか。少しだけ不安になった。
体育館へ足を向けると、中からはシューズが床と擦れる音が聞こえてきた。時折聞こえる部員の声も、乾いたボールの打撃音も、ひどく懐かしいものに思える。
ほんの少しだけ開いている扉の前で、足が止まってしまった。
あの扉を開ければ、みんなに会える。大好きなあの空間にいけるのに。
扉を開けるのが、怖いと思ってしまった。
体育館の扉は、私を拒絶しているようにも思えて、一歩先に踏み出すことが出来ないでいた。
「…あの、どうしたんですか? 何かバレー部に用事ですか?」
振り返ると、黒いジャージ姿の女の子が少しおどおどした様子で私をうかがっている。明るい髪色に星形のヘアゴムが揺れていた。
初めて見る女の子だったけれど、その黒いジャージには見覚えがあった。紛れもなくバレー部のジャージだ。…ということは、この女の子は……バレー部なのだろうか。
「あ、えっと、私……」
初対面の女の子になんと言っていいのか、言葉に詰まってしまった。なんと説明すべきか思案していたところで、急に女の子が何かひらめいたような顔をした。
「あっ! あれですか! マネージャー希望?! ごめんなさい、気が付かなくて!! 先輩呼んできますね!!」
そう言うなり女の子は体育館へと駆け出して行った。その後ろ姿に「待って」と声をかけたものの、女の子の姿は体育館の中へと消えてしまった。