第32章 決死の覚悟
「…烏野高校のバレー部、昔は強かったそうね。けれど今では鳴かず飛ばずなのでしょう。貴方のおっしゃる、その『春高』に出場するには、県内で一番にならなければいけないのはご存知よね? この間のインターハイの予選では三回戦敗退。春高の予選、十月だそうよ? あとたった三ヶ月かそこらで、優勝できるような力をつけられるのかしら? 甚だ疑問だわ。そんな優勝できるかどうかも分からないチームの為に、宮城に戻りたいの?」
流れるような祖母の言葉に、私はまた言葉を詰まらせてしまった。
祖母を甘く見ていた。この人は、私に関することは調べ上げているのだろう。
バレー部のことも、きっと旭先輩のことも。
「…それでも、今年は春高に行くって、約束したから。…あなたの言う、『あの男』の人と。私は彼のそばにいたいんです。彼と一緒に、春高に行きたい!
…あなたは馬鹿な事をと言うかもしれない。けど、私にとっては馬鹿な事なんかじゃない。命を懸けてでも、実現させたい事なんです」
さっきは言えなかった本心を、私は思わず口にしていた。言い切った私を見つめる祖母の顔は、予想通り歪んでいる。きっと祖母には理解しがたいのだと思う。
「……本当に、貴方は父親にそっくり。馬鹿みたいに頑固なところまで、似なくてよかったのよ……」
祖母の姿が、いつになく力なく見えた。ぎゅっと寄せられた眉根が苦しそうに震えている。私はただじっと、そんな祖母の姿を見つめていた。
しばらくの沈黙の後、私の視線を感じた祖母が顔をあげてこちらを見た。きまり悪そうに視線をそらした祖母が、静かに口をひらいた。
「……結局、その男のそばにいたい、ということなのね」
言葉にされると少し気恥ずかしくて、私はただ黙ってコクリと頷いた。
深いため息の後、祖母は頭を抱えたまま私の顔を見る。
「こうしましょう。一年生の間だけ、宮城に戻ることを許します。二年生になったらまたこちらへ戻ってくること。あの男が卒業するまでは、貴方の自由に過ごさせてあげることにするわ。…強引にこちらに連れてきたのは、確かだから」
命を懸けたというのに、条件を提示されるというのは……少し戸惑った。
だけど、あの祖母から約一年とはいえ宮城に戻る許しを得られたのだから、ここで承諾しておかねばならない気がする。