第32章 決死の覚悟
ただ、それがどれだけ難しいことかは、身をもって分かっている。
多分、これが最後の抵抗になるだろう。
お弁当を作り終えて、私はある決意を胸に、祖母の元へと向かったのだった。
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「失礼いたします」
祖母の部屋の前で、そう一声かけて扉をノックする。いつもなら祖母の「どうぞ」の声を待ってから入室するけれど、今日は返事を待たずに扉を開けた。
扉を開けた先の祖母と目が合う。明らかに嫌そうな顔をして、小言を口にしていたけれど、気にせず祖母の目の前まで歩み寄った。
入り口には鍵をかけた。ほんの少しは時間が稼げるはず。お付きの人も、今はここにはいない。チャンスは、今しかない。
私はじっと祖母の目を見つめて、嘆願した。多分、どんなに思いを込めても、この人には届きはしないだろうけれど。それでも一度は試しておかなければならないだろう。
心のどこかで、怖いという思いがあったのかもしれない。
祖母に宮城に戻る許しをもらえれば、最後の抵抗なんてせずに済む。
穏便に事が済めば、それに越したことは無い。
「お願いがあります。宮城に帰らせて下さい」
そうなるだろうと予測はしていたものの、祖母は私の願いを一笑に付した。予想通りとはいえ、実に腹立たしかった。
この人にとっては私の気持ちなど、本当にどうでもよい瑣末事に過ぎないのだろう。
祖母のその思いを再確認した私は、ポケットに忍ばせていたナイフを静かに取り出した。
冷たく光るその切っ先を確認した祖母の目が、大きく見開かれたのが目に入った。向こうが動く前に、私はその切っ先を自分の喉元に静かにあてた。
ひやりと、冷たい感触がする。微かに震える体を落ち着かせるように、息を飲んだ。
覚悟を決めなければ。本気で挑まなければ、この試みは失敗に終わってしまうのだから。
「…宮城に、烏野に戻れないのなら、私はここで死にます」
抑揚をつけずに、淡々と告げた。本気なのだと、分からせる為だった。
祖母の瞳が一瞬揺らいだけれど、すぐにいつもの冷ややかな目に戻った。本気ではない、とたかをくくっているのかもしれない。
ナイフをあてがった部分が、どくどくと脈打っているのが分かる。息を深く吸い込んで、祖母を見る。