第31章 新しき幕開け
苦しい時を共に過ごしてきた俺達三人にとってのラストチャンス。
東京、オレンジコートに立つ。ともすれば一笑に付されそうな目標を掲げて、俺達は改めて気持ちを一つに重ねていた。
「……春高、行ったらさ。黒崎も見てくれるかもしれないよな」
つい、そんな言葉が口をついて出てしまった。女々しいことこの上無かったと思う。だけど大地もスガも、俺の言葉に黙って頷いてくれていた。
黒崎がどこにいるか、分からないけれど。
彼女ならきっと、春高の試合を見てくれるだろう。もしかしたら会場で会えるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら、コップになみなみと注がれた水を一口飲んだところで、目の端に白い物がチラリと映った。
白い物に目を凝らせば、その正体は窓の外の白い制服姿だった。
見慣れないその制服の色に、自然と目が行く。
真っ白な制服に、艶やかな黒髪がよく映えている。肩を少し過ぎたあたりで切りそろえられた黒髪は、流れる様に風に揺らめいていた。
ふと、その後ろ姿に既視感を覚えた。
自分の都合のいいように、脳が働いているのだろう。そう思ったけれど、その白い制服から目が離せないでいた。
「……旭?」
スガの怪訝そうな声に生返事を返して、俺の視線はいまだ白い制服姿に注がれたままだった。
「……俺、とうとう幻覚が見えるようになったのかも」
「はぁ? 旭何を言って……」
スガと大地が、釘付けになっている俺の視線の先を追って、俺と同じように固まった。
「…おい、旭。幻覚じゃ、ねぇべ」
「あれ……もしかして……」
二人の言葉を最後まで聞かずに、俺は店を飛び出していた。
道を挟んだ向かい側にいる白い制服姿を追って、ろくに左右の確認もせずに道路を渡った。
突然飛び出して来た俺に驚いて車がクラクションを鳴らして、窓から顔を出したおじさんが握りこぶしをあげて怒鳴り散らし始めた。
もちろん自分が悪いのはよく分かっていたから、頭を下げはしたけれど、気が急いて軽く謝罪をした後は急いで白い制服姿の方へと視線を移した。
白い制服姿の子は、とても驚いた顔をしてこちらを凝視していた。
「…っ、黒崎!!」
黒崎の返事を待たずに、俺の体は勝手に動いていた。